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俺と彼の関係(6)

俺は箸を箸置きに置き、座布団から降りた。 怪訝そうな顔の彼に 「社長、申し訳ありませんが、うちの金山のプライベートに関しては、私は何もお答えすることはありませんし、出来かねます。 先日のお礼はもう結構です。 そのお気持ちは十分いただきましたから。 これにて失礼いたします。 今後ともよろしくお願いいたします。」 丁寧に一礼して席を立った。 「待って!俺はそんなつもりで言ったんじゃない! それを利用しようとか揶揄おうとか、そんな邪な気持ちじゃないんだ。 気分を害したならすまない。 満に何かお祝いをあげたくて…その話の取っ掛かりにしただけなんだ。 この話題が嫌ならもう口にしないから、頼む、席に戻ってほしい。」 他社のいち秘書如きに素直に頭を下げる彼の姿に、我に返った俺は青ざめてきた。 “取引先のトップに頭を下げさせている” 満に知れたら何と言われるか。 「頭を上げて下さいっ! 私如きにそんな、お止め下さい!」 「じゃあ一緒に食べてくれる?」 「はっ、はいっ!ですからどうか」 「うん、分かった。でも、お祝いは何がいいか相談に乗ってくれるよね?」 へにょ、と笑った彼の顔に、やられた。 策士だ。 俺が渋々座り直すと、もう一度きちんと謝罪されて、料理に手を付けるよう促された。 いい加減お腹も空いていたし、俺の好物ばかりだったから箸も進み、そのうちに社長の術にハマって会話も弾んでいた。 「黒原君、結構ハッキリしてるんだね。 ただの大人しいデキる秘書じゃなかったんだ。」 「え?」 「うーん、やっぱりウチに来ない? 君みたいな秘書()がほしいな。」 「いえ、申し訳ありませんが、それはお断りしたはずです。 今日はご馳走になりありがとうございました。 失礼な言動をお許し下さい。 では、また。」 そう言って立ち上がろうとした瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。 え!?それ程飲んでいないのに何で!? 空きっ腹にアルコール入れたからか!?

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