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身体だけ!?(3)
思いはあれこれと巡る。
油断した不甲斐なさと、今まで自分が守ってきたものへの執着と、淡く芽生えた恋心。
まんじりともしないまま朝を迎え、充血した目を眼鏡で隠し、思考回路が停止したまま出勤した。
「黒原さん、おはようございます!
あれ?眼鏡、珍しいですね。」
「あっ、うん。今朝コンタクトが入らなくって。
見慣れないかもしれないけどごめんね。」
「眼鏡もイケてます!カッコいいです!」
「ははっ、褒めてくれてありがとう。」
相手を疑うことをしない従順な部下で、満の伴侶の檸檬君は、安定のキラキラ感を振りまいている。
その首筋には…はぁ、昨夜もヤリやがったな。
いや、他人 のことは言えた義理ではない。
俺の身体にも……はぁ…忘れよう。大型犬に噛まれたと思って忘れるんだ。
仕事だ、仕事。
「おはよう!
おーい、俊樹。昨夜はご馳走してもらったんだろ?アイツからご機嫌でお礼のLINEがきたぞ。
『また秘書殿を借りるからよろしく』
ってさ。お前、余程気に入られたんだな。
アイツ気難しいので有名なんだけど。」
「“また”って…もう借りは返してもらいましたから、次回からはお断りして下さい。
大体、取引先の社長とその相手先の秘書が2人っきりで会食だなんて、誰かに見られたら変な憶測を呼びますから。」
「頭固いなぁ、お前。
別にいいじゃん、俺が許可してるんだから。
まぁ、嫌なら自分で断れよ。断っても業務には何の差し障りもないから気にしなくてもいいぞ。
あ、檸檬、コーヒー入れてくれる?」
満が無駄なウインク付きで檸檬君に声を掛けると、初々しい満の伴侶は愛らしい笑顔を返してパントリーに消えた。
俺にはあんなかわいらしさなんて無縁だな…
その後ろ姿をぼんやりと眺めていると
「俊樹、お前何かあったのか?」
ぎくっ
「へ?俺はいつもと同じだけれど。」
「そうか。
じゃあ、今日のスケジュールを頼む。」
ヤバいヤバい。変に勘のいい奴め。
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