26 / 174
困惑(6)
それからのニールは甲斐甲斐しかった。
さっきまでのメイド扱いはどこへやら、「何処か痛むところはないか」「動いて喉は渇いてないか」とか「起こしてやるからベッドへ」とか…主人が下僕になっている。
その度に「大丈夫だ」「必要ない」と返すものの、ニールは捨てられた子犬のように悲しげな顔をする。
その顔、止めろ。
心が揺れる。
なぁニール。必要以上に俺に情けを掛けるな。
俺、単純だから、勘違いして淡い期待を寄せてしまう。
お前から言い出したんだよな、『セフレで』って。
だから、だから、これ以上優しくするな。
喉元まで迫り上がってくる台詞が、あと一歩の所でくぐもって出て行かない。
言葉に出してしまえば、このママゴトのような関係が終わってしまうから…それが分かってる以上、別れる覚悟のない俺は言い出せない。
ニールに本命が現れるまでの、身体だけの付き合い。
これでいいのか、このままでいいのか。
ニールにとってはただの遊びでも、俺にとっては初めて身体を委ねた思いを寄せる相手。
切ないなぁ。俺らしくない。
こんなに女々しい奴だったんだろうか。
ふぅ、と深呼吸すると誤魔化すように告げた。
「ニール、本当に心配いらないから。
自分ちの掃除をするはずだったのに、何でお前んちを掃除してるのか、合点がいかなくてフテただけだから。」
「じゃっ、じゃあ、明日は俺が俊樹の家の掃除をしてやろう!
これでおあいこだな!はははっ!」
「何言ってんの!?それは遠慮する。
上の階に満が住んでるから、万が一鉢合わせした時に言い訳できない。
アイツは時々乱入してくることがあるからな。」
「えーっ、俺は全然気にしないけど。」
「俺が嫌なんだよっ!」
あ…耳と尻尾が垂れた。
どうしてお前が泣きそうな顔してんの?
俺の方が泣きそうだっつーの。
ともだちにシェアしよう!