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困惑(6)

それからのニールは甲斐甲斐しかった。 さっきまでのメイド扱いはどこへやら、「何処か痛むところはないか」「動いて喉は渇いてないか」とか「起こしてやるからベッドへ」とか…主人が下僕になっている。 その度に「大丈夫だ」「必要ない」と返すものの、ニールは捨てられた子犬のように悲しげな顔をする。 その顔、止めろ。 心が揺れる。 なぁニール。必要以上に俺に情けを掛けるな。 俺、単純だから、勘違いして淡い期待を寄せてしまう。 お前から言い出したんだよな、『セフレで』って。 だから、だから、これ以上優しくするな。 喉元まで迫り上がってくる台詞が、あと一歩の所でくぐもって出て行かない。 言葉に出してしまえば、このママゴトのような関係が終わってしまうから…それが分かってる以上、別れる覚悟のない俺は言い出せない。 ニールに本命が現れるまでの、身体だけの付き合い。 これでいいのか、このままでいいのか。 ニールにとってはただの遊びでも、俺にとっては初めて身体を委ねた思いを寄せる相手。 切ないなぁ。俺らしくない。 こんなに女々しい奴だったんだろうか。 ふぅ、と深呼吸すると誤魔化すように告げた。 「ニール、本当に心配いらないから。 自分ちの掃除をするはずだったのに、何でお前んちを掃除してるのか、合点がいかなくてフテただけだから。」 「じゃっ、じゃあ、明日は俺が俊樹の家の掃除をしてやろう! これでおあいこだな!はははっ!」 「何言ってんの!?それは遠慮する。 上の階に満が住んでるから、万が一鉢合わせした時に言い訳できない。 アイツは時々乱入してくることがあるからな。」 「えーっ、俺は全然気にしないけど。」 「俺が嫌なんだよっ!」 あ…耳と尻尾が垂れた。 どうしてお前が泣きそうな顔してんの? 俺の方が泣きそうだっつーの。

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