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困惑(7)
うやむやに話を終わらせ微妙な空気を醸しつつ、ランチの時間に間に合うようにニールに背中を押されて車に乗り込んだ。
「…やっぱり車もあっち仕様にこだわってんのか。」
「……“あっち仕様”って…あぁ、やっぱ鋭いな。
お前みたいに車種と俺の血のルーツを結びつける奴は殆どいないんだけど…流石満の有能秘書殿だな。
車も、って。『も』ってことは他にも?」
「…部屋のインテリアが…そうだったから。」
「俊樹には敵わないな。そうだよ。
…祖父が仕事先で出会った祖母に一目惚れして、家族中の大反対を押し切って掻っ攫って駆け落ちしてさ。
当時の国際結婚って、世界情勢からいっても周囲が受け入れ難いものでさ、愛やら恋だけでは飯も食えない状態に陥って。
俺の親父を産んで暫くして、『故郷に帰りたい』って泣きながら、祖母は病気でこの世を去ったんだ。
祖父はショックが大きかったんだろう、祖母に関する一切の物を隠して、一生触れようともしなかった。
そんな状態だからハーフの親父も、虐めや祖父の再婚相手達…まぁ、腹違いの義兄弟含めてだな、とうまくいかなかったりとかで、かなり苦労したらしい。
結局祖父は、二度目の結婚も上手くいかずに別れることになったんだけど。
俺は祖母の国の血を色濃く引いたみたいでさ。
こんな風貌で育ったもんだから、両親でさえ何となく俺の存在を認めたくなかったんだろうな。同じ家に住みながら、いつも疎外感を感じていた。
自分のルーツを知るにつれて、祖母が生まれ育った国への興味と憧れが生まれてきてさ。
いつの間にか、部屋も車も、俊樹の指摘通りになってる。」
突然の告白に咄嗟に言葉が出なかった。
「……そうだったのか…何不自由ない新進気鋭の起業家だと思ってた…ごめん。俺なんかにそんな大事なこと話してもいいのか?」
「いや、謝る必要はないよ。いいんだ。
でも俊樹、俺は益々君が欲しくなった。君みたいな秘書がいたら、俺はもっと会社を大きくできると思う。
うちに来ることを真剣に考えてくれないか?」
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