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困惑(8)
まるでプロポーズのようなセリフにドキッとしたが
「ニール、せっかくのお誘い申し訳ないが…俺の答えは、先日もお断りした通りだ。
俺は代々続いてきた黒原の家の責務を全うする、というだけではなくて、今の仕事に誇りを持ってやっている。
だからお前のオファーを受けることはできない。
申し訳ない。」
「…ふぅ、やっぱりそうか。残念だな…でも俊樹、俺は諦めない。」
「しつこい男は嫌われるぞ。」
「ははっ、肝に銘じておくよ。
あ、あそこだ!」
海沿いのお洒落なカフェテラスが見えてきた。
近付くにつれて、ニールですら1人では来れない、と言っていた訳が分かった。
カップルもしくは数人連れなのである。
ひとりなんて人はいない。
ドライブがてらに、という程よい距離で、お洒落で、美味くてそこそこな値段で、とくれば、休日のデートコースとして人気がある訳だ。
まだオープンには少し時間があるのだが、順番待ちの客が店の前に並んでいる。
「おい、ニール。」
「どうした?」
「確かに、1人では入りにくいのはよく分かった。
だからと言って、俺達はカップルでも何でもないんだが…」
「細かな事は言いっこなしだ。
連れがいれば恥ずかしさも半分になるだろ?
オープン前の時間だから、多分あの人数ならすぐに席につける。」
「ひょっとして…一緒に来る相手がドタキャンか何かで、俺はピンチヒッターか…せっかくのお楽しみが、俺なんかで悪かったな。」
「え?最初から俊樹と来ること前提だけど?」
「は?」
「ほら、並ぶぞ!」
既に並んでいる客が、チラチラと俺達の方を見る。そりゃあ目立つよな。
小声で文句を言ってやった。
「ニール、お前目立ち過ぎ。」
「はぁ!?お前こそ…俊樹、お前、自分がモテるってこと、もっと自覚した方がいいぞ?」
「何言ってんの?自慢じゃないが、俺はモテた試しはない。」
「それ、無自覚すぎるよ…」
ため息をつかれ、マジマジと見つめられた。
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