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困惑(10)
ぷっ
悪いけど、思わず吹き出した。
「はっ、気の毒に…そりゃあニールと食事をした方がいいに決まってる。
彼女達の選択は正しかったな。でも、あの雰囲気は…流石に気不味そうだ。
タダ飯にありつけるかどうかは彼氏達の気分次第、ってとこか。」
「俺はしつこい人間は大嫌いだ。」
「まぁ、そう言うなよ。それだけニールが魅力的だってことだろ?」
「“上辺だけ”のな。」
その自嘲的な言葉と顔付きに、俺はこの男の心の闇を垣間見た気がした。
俺が黙ってしまったことに気付いたニールは、いつもの紳士的な笑顔に戻った。
「俊樹、ほらメニューがある!
どれも美味そうだな…お前、どれにする?」
俺は適当に相槌を打ち考えるフリをしながら、さっきのニールの言葉を繰り返していた。
『しつこい人間』
『上辺だけのな』
やはりあの見た目だ。
自分の意思とは関係なく、幼い頃から良きも悪しきも特別視され、そういう扱いを受けてきたのは簡単に想像できる。
両親からも愛されていたとは言えない家庭環境。
必然的に早くに自我が芽生え、愛情を知らずに成長した感がある。
愛に飢えた獣
何故かとてつもなくニールが愛おしくなり、胸が痛んだ。
抱きしめたい。身体も、その傷付いた心ごと。
俺が、俺が癒して守ってやりたい…
「俊樹?」
心配そうなニールの問い掛けに顔を上げると、そっと頬を拭われた。
「え、何?」
「俊樹、お前泣いてる。どうした?」
「泣いてる?俺が?……あ、ゴミが入って…コンタクトが…ごめん、車のキー貸してくれる?」
「風が舞ってたからな、ゴミも巻き上げたんだろう。
……俊樹、今日は帰ろうか。」
「は?楽しみにして来たんだろう?
大丈夫。一度外してくるから待ってて。」
俺は半ば強引にニールからキーを預かると、1人で駐車場まで行き助手席に乗り込んだ。
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