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困惑(11)

この車の中はニールの匂いで一杯だ。 目を閉じると、ニールに抱かれた昨夜の激しい交わりを思い出す。 脳も身体も甘い行為を思い出して、ぶるりと震える身体を両手で抱きしめた。 ニールへの思いを再認識させられる。 セフレなんか嫌だ。俺はアイツの特別になりたいんだ。 ニールを愛してるのは俺なんだ! むくむくと自己顕示欲が溢れ出してきた。 溢れる涙で更に目に違和感が生まれ、取り敢えずコンタクトを外した。 今外しても、どうせ運転はニールだし、眼鏡も持っているから不便ではない。 そっと目を拭っていると、コツコツと窓ガラスを叩く音がした。 「ニール!」 「俊樹、大丈夫か?病院行くか?」 「そんな大袈裟な!ゴミが入っただけだから、もう大丈夫。 それより並んでおかないと、呼ばれた時にその場にいなかったら順番飛ばされるぞ。」 にやりと口元を引き上げたニールは、ドヤ顔で言った。 「ウェイターに頼んできたから心配いらない。」 あぁ、最大限の愛想笑いで陥落させたのか。 「ごめん、今行く。」 眼鏡を装着すると、ニールがエスコートするように大きくドアを開け、手を差し出した。 「俊樹、どうぞ。」 「…お前、他の人にそれやったら勘違いするぞ。」 「俺にとってはこれが当たり前だから。」 そうですか、そうですか。爆ぜろ、イケメン! そっちがその気なら俺だって。 差し出された手に自分の手を重ね車を降りた。幸いにも駐車場にはだれもいなかった。 「ありがとう。」 お礼を言いつつも、くっ、とニールを睨むと、余裕の笑みを返された。 「『当たり前』か…」 「ん?何か言った?」 「いや、別に。待たせて申し訳なかった。」 「全然。それより俊樹、お前AとB、どっちにする?」 「そうだな…俺はメインが魚のAにしようか…ニールは?」 「じゃあ俺は肉メインのBで。 それでな、俊樹、俺」 「魚も食べたいんだろ?いいよ。半分こしよう。」 ニールの顔が、ぱぁっと輝いた。

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