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困惑(12)

俺達が店に戻ると、丁度一つ前のカップルが呼ばれたところだった。 「はぁ、間に合って良かった…」 「いいタイミングだ。俊樹、ドリンクは何にする?食後でいいか?」 「あぁ。ホットで。デザートの時でいい…お前ホントにマメだなぁ。ここまでエスコートしたら落ちない女なんていないだろう。」 「うーん…これは留学中に自然と身についた動作の一環としてだからね。 『俺はこれが普通だから』ってオープンにして釘刺してるんだけど。 中にはそう勘違いする奴もいるかもしれないけど、俺は本気じゃないし興味ない。 もし相手が馴れ馴れしくしてきたら、その時にはハッキリと言う。」 「そうなんだ。」 聞きながら落ち込んでいる自分に気付いてしまう。 そうか、釘刺されてるんだよな。『本気になるな』って。 いくらセフレとはいえ、やっぱり馴れ馴れしくしちゃいけないんだ。 俺達は、ぬるま湯のような曖昧な関係なんだもんな。 ニールに本気の相手が現れた時には…俺の存在なんか微塵も残さずに綺麗さっぱり消されるんだろう。 「2名でお待ちの黒原様ー!お待たせしました!」 「おっ、俊樹、順番来たぞ!」 俺の思いを知らないニールが満面の笑みで立ち上がった。 心にちくりと棘が刺さったまま、張り付いた笑顔で俺も立ち上がった。 「うわぁ、写真と一緒だー!美味そう! さあ、俊樹、食べよう!」 SNSにでも載せるのか、ニールがご機嫌で写メった。俺のオーダーしたやつも。 それからきちんと手を合わせて「いただきます」と言ってから、律儀に肉を半分に切り、俺の皿を引き寄せてそれを乗せた。 「俺のも半分にしてくれ」と頼むと嬉しそうに笑いながら取り分けてくれた。 「美味いっ!」 「美味しいっ!」 ニールは自分が誘ったからと言って奢ってくれた。 評判通り、映える盛り付けで、味も美味かったけれど、俺の心は抜けない棘が刺さったままだった。

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