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すれ違い(1)

それからもニールは何かと理由をつけ、“満を通して”俺に誘いを掛けてくる。 俺1人で、という時もあるし、満や、時には檸檬君も交えることもある。 いくら弱みを握られているとはいえ、個人のLINEなら未読スルーもできるし、すっぱりと断ることもできるのだが、それが何かのプロジェクトが終わった後とか、アイツの会社に利益になるようなことに俺が関わっていたとか、絶妙なタイミングとさり気なさなので、割と疑り深い満ですら『ニールの労い』としか思っていない。 ましてや檸檬君に至っては 「黒原さん、うちの会社だけでなく取引先の会社にも貢献するなんて…凄いですっ! 俺も黒原さんみたいに『デキル秘書』になりたいですっ!」 なんて目をキラキラさせながら言っている。 えーっと。それ、訂正。 『貢献』は…してるよな。ニールの性欲解消の。 『デキル』じゃなくて『ヤられた』んだよ、単に。 そう伝えたいけどこんなこと伝えられない。 人を疑うことを知らない、純真な檸檬君のキラキラ目が痛かった。 ニールから誘いを受ける度にため息が止まらない。 「社長、こう頻繁だと周囲から変な目で見られます。 次回からお断りを。」 「何で?俺達、数少ない親友なんだぜ。 取引先でありながら、損得抜きで付き合いたいと思える奴は中々いないぞ? 俊樹…何かあった?」 「いえ、別に…特定の会社と親密になるのは如何かと思ったので…」 「俺は、アイツとは仕事を離れてプライベートでも付き合っていきたいんだ。 心配はしなくてもいいぞ。 アイツは情報通だし話してても退屈しないんだよ。 どこの会社でも、経営者同士親しく付き合いをしている所はいくらでもあるぞ。 異業種懇談でも意気投合する奴らいるじゃないか。」 「…承知いたしました。」 「まぁ、どうしても都合の悪い時には断ってやるから。」 「そうですね。そう願います。」 毎回断れよ。小さく嘆息する。

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