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すれ違い(2)
満は何だか腑に落ちない顔をしていたが、檸檬君に呼ばれて鼻の下を伸ばして席を立った。
檸檬君、グッジョブ。
おっと、マズい、マズい。
バレないように気を付けなければ。
ニールは…俺の都合が悪くて断っても、例の証拠をチラつかせるような姑息な真似はしなかった。
食事の誘いも夜の誘いも、ドキドキしながら断ってもあっさりしたもんだった。
それがかえって俺の心を締め付けている。
なんたって俺は自由の利くセフレだもんな。
あのニールのことだ。
俺以外にも、そういう相手がいるんだろう。
俺ばかりアイツに囚われて身動きができなくなっている。
苦しい。
切ない。
好きな相手は俺のことを玩具 だとしか思っていない。
ニールと同じ車種の車を見かける度に、もしかして会えるかも、と胸躍らせる自分がおかしくて、乾いた笑いが込み上げる。
胸が千切れそうな思い、ってこういうことを言うんだろうな。
あんなに偉そうに、満や檸檬君に対して恋愛の何たるかを訥々と講釈を垂れておきながら、当の本人はほぼ恋愛未経験だなんて、呆れる。
満達が知ったら、何て言われるか。
絶対にバレないようにしなければ。
「あの…黒原さん…」
「ん?檸檬君どうした?」
「…仕事のことじゃないんです…あの…」
「満のこと?」
「いえ、その…黒原さん、最近ちゃんとご飯食べてますか?」
「へっ!?何で?…そうだな、忙し過ぎて抜くこともあるけど、ちゃんと食べてるよ。
どうして?何処か悪そうに見える?」
「体重、減ってませんか?
前より凄く痩せたみたいです。」
「あー…言われてみれば…ベルトの穴が合わないなーって…気のせいかと思ってた。」
「すみませんっ!俺がちゃんと仕事をして黒原さんにご負担のかからないようにしなくちゃいけないのに、迷惑ばっかりかけてしまって…
本当にゴメンナサイっ!!!」
檸檬君が涙声で頭を下げた。
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