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すれ違い(3)

「えっ、ええっ!? ちっ、違うって!絶対に違う! 何言ってんの?檸檬君のせいなんかじゃないから、ほら、頭を上げて!ね?」 純真で素直な部下は、大きな瞳に涙を薄っすらと溜めていた。 「…だって黒原さん、見る間に痩せてきちゃって……俺がちゃんと仕事しないから、黒原さんばっかりに負担が掛かっちゃって…ゴメンナサイ……」 「いやいや、違うから! 檸檬君が来てから、俺の仕事は滅茶苦茶捗ってるの。それは絶対に間違いないから! 君が来てくれて、心の底から良かった、って思ってるんだから。 それは信じて! …… 仕事のことなんかじゃないんだ…」 「え…じゃあどうして…どこかお身体悪いんですか?まさか入院レベルの病気?」 「ははっ…残念。それも違う。俺はこの間の健康診断でも全く問題なしの健康体だったから。 プライベートで、ちょっとね…でも大丈夫。 もう落ち着いたから。 心配掛けてごめんね。 ちゃんとご飯も気を付けて食べるから、心配しないで。ね?」 檸檬君は腑に落ちないような顔をしていたが、俺を見つめたままゆっくりと頷いた。 「どちらにしても、俺、もっと黒原さんに頼ってもらえるように仕事頑張りますっ!」 「サンキュー。 でもまずは結婚式の準備を進めないとね。 本家のしきたりなんかも聡子さんから言われてるけど、2人で決めることもたくさんあるだろう?」 「あ…そうでした…」 「君には窮屈な決め事もあるだろうけど、満は『今の世の中にそぐわないしきたりは排除』って考えだから、よく相談して。 檸檬君が少しでも嫌だと思うことは、満に隠さずに話したほうがいい。 それがお互いのためだし、将来の金山家のためにもなる。」 「はい。ありがとうございます。 満さんと話し合うようにします。 でも黒原さん、お身体大切にして下さいね。」 「うん、ありがとう。」 そうか…そんなに痩せて見えるのか…

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