35 / 174
すれ違い(3)
「えっ、ええっ!?
ちっ、違うって!絶対に違う!
何言ってんの?檸檬君のせいなんかじゃないから、ほら、頭を上げて!ね?」
純真で素直な部下は、大きな瞳に涙を薄っすらと溜めていた。
「…だって黒原さん、見る間に痩せてきちゃって……俺がちゃんと仕事しないから、黒原さんばっかりに負担が掛かっちゃって…ゴメンナサイ……」
「いやいや、違うから!
檸檬君が来てから、俺の仕事は滅茶苦茶捗ってるの。それは絶対に間違いないから!
君が来てくれて、心の底から良かった、って思ってるんだから。
それは信じて!
…… 仕事のことなんかじゃないんだ…」
「え…じゃあどうして…どこかお身体悪いんですか?まさか入院レベルの病気?」
「ははっ…残念。それも違う。俺はこの間の健康診断でも全く問題なしの健康体だったから。
プライベートで、ちょっとね…でも大丈夫。
もう落ち着いたから。
心配掛けてごめんね。
ちゃんとご飯も気を付けて食べるから、心配しないで。ね?」
檸檬君は腑に落ちないような顔をしていたが、俺を見つめたままゆっくりと頷いた。
「どちらにしても、俺、もっと黒原さんに頼ってもらえるように仕事頑張りますっ!」
「サンキュー。
でもまずは結婚式の準備を進めないとね。
本家のしきたりなんかも聡子さんから言われてるけど、2人で決めることもたくさんあるだろう?」
「あ…そうでした…」
「君には窮屈な決め事もあるだろうけど、満は『今の世の中にそぐわないしきたりは排除』って考えだから、よく相談して。
檸檬君が少しでも嫌だと思うことは、満に隠さずに話したほうがいい。
それがお互いのためだし、将来の金山家のためにもなる。」
「はい。ありがとうございます。
満さんと話し合うようにします。
でも黒原さん、お身体大切にして下さいね。」
「うん、ありがとう。」
そうか…そんなに痩せて見えるのか…
ともだちにシェアしよう!