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すれ違い(6)
暫くしてやっと落ち着きを取り戻した俺は
「社長、お気遣いいただきありがとうございます。
甘えてそうさせていただきます。
常時連絡は取れるようにしておきます。」
「うん、こちらのことは気にしなくてもいいから。
とにかく美味いものを食べてゆっくりしておいで。
最近のホテルのオプションは中々いいものがあるらしいから、遠慮せずに好きなように過ごしてくるといい。予約してあるのもあるから。
とは言っても、たった3日で悪いな、俊樹。」
「とんでもない!忙しい時に」
「ストップ!そんなことも全て取っ払って休んで。
俊樹に倒れられでもしたら、そっちの方が困るし、何より檸檬が悲しむ…アイツも相当心配していたからな。」
「やっぱり檸檬君が…」
「俺達にとって、俊樹は公私共に大切な存在だからな。
他人にかまけてないで、もっと自分を大切にしろ。
お前、いい男なんだから安売りすんなよ。」
言い返せず黙って頷いた。
俺達の本当の関係に気付いているのか。
飄々としていても、やはり一族の長で経営のトップ。一国一城の主だけある。人を見る目は幼い時から磨かれている満が、俺達のことに気付かぬ訳なんてなかったんだ。
バレたらしょうがない。
とにかくこの体調と見栄えを何とかしなければ。
ここはありがたく申し出を受けて、自分を立て直そう。
「社長、ありがとうございます。
檸檬君に引き継ぎをしてきます。
…満、ありがとう。色々と迷惑掛けるかもしれないが…」
「ふん、ばーか。
それっくらいのこと、迷惑だなんて言わねぇーんだよ。
俺に何かできることがあるなら言ってくれ。
全力で応援する。
あ、言っとくけど、会社がどうだとか、金山の家がどうだとか、そういうのは全く関係ないからな。」
「…お前はサトリか。」
「どっちかといえば俺は“妖怪王ぬらりひょん”がいい。」
高笑いする満を残し、深く一礼して社長室を辞した。
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