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すれ違い(7)

俺が社長室から出てくるのを檸檬君が待ち構えていた。 彼からは何も言わないが、目が真剣に訴えている。 優しくて思いやりに溢れた素直な部下()。 こんな部下を持てて、尚且つ満の伴侶になって一生側で支えてくれることに感謝している。 彼の前に立つと 「檸檬君、お気遣いありがとう。 明日から3日間の“出張”に行ってきます。 社長の予定は特に入ってないのだけど、一応、俺の扱ってるものの伝達だけしておくね。 携帯は常に繋がるようにしておくから、心配しないで掛けてきて。」 檸檬君は安堵の表情を見せた。 「勝手なことを社長に相談して申し訳ありませんでした! でも、俺はどうしても」 「ありがとう。 ゆっくり静養して、休み明けには元気に出勤してくるよ。 さて、これに全部ファィルしてあるんだけど…」 今週は社長の仕事も詰まっていない。 引き継ぎらしい引き継ぎもなく、檸檬君との打ち合わせは終了した。 檸檬君は申し訳なさそうに何度も謝罪を繰り返す。 「差し出がましい真似をして、申し訳ありませんでした。」 俺は彼の肩を叩き 「いいや、ありがとう。檸檬君のお陰でぶっ倒れるのを回避できたんだよ。 自分でもこんなに参ってるなんて気付かなかったんだ。倒れてからでは遅いからね。 君達に甘えてのんびりしてくる。 本当に、ありがとう。」 檸檬君は頷いた。 そっと目尻を拭っている。 俺なんかのことを真剣に心配してくれてたんだな。かえって申し訳ないことをした。 満、お前が選んだヨメは最高だぞ。 絶対に大事にしろ。 俺も微力ながらお前たちのことを守るからな。 そうだ! 結婚式の段取りも詰めなきゃならんのだった。 ホテルにいる間に聡子さんに電話して… 「黒原ぁーっ!」 「はいっ!」 「俺達の結婚式の打ち合わせはお前の休暇明けからスタートするから、余計なことはしないように。 資料は一切持って行くな。パソコンも禁止。 何もするな。」 「……はい。」 満、鋭い。

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