42 / 174

出張(3)

ガラガラとケースを引っ張りながら駐車場に向かう途中で、管理員さんに出くわした。 「こんにちは。行ってらっしゃいませ。」 「こんにちは。 あ、大久保さん、今度粗大ゴミ出すかもなので、はっきり決まったらお知らせしますね。」 「はい、承知しました。私が不在でしたらメモ入れておいて下さいね。」 「はい、よろしくお願いします。行ってきます!」 大久保さんは初老の男性で、余計なことは言わない詮索しない、個人情報をしっかり守ってくれる人だ。 流石に金山家の物件、雇う人選も抜群だ。 だから引っ越しもできないんだよなぁ。 もう、満には檸檬君という伴侶ができたから、俺が今までのように近くに居て、一々目を配る必要もなくなったんだけど。 何だか複雑な気持ちを抱えて、向かう先は大型家具雑貨量販店。 そこそこな値段で良い物が揃っている。見るだけでもワクワクしてきた。 うん、気分転換には最適だ。 「チェストも新しいのにしようかな。」 寝室のやつはもう学生時代から使っていて、結構ガタついて不便だった。 おっ、大きさも色もいい感じのやつがある! これにしよう。 ついでに布団カバーもラグもカーテンも買ってしまえー! 食器は…あっ、これかわいいじゃん。 あははっ、楽しくなってきた。 結局…あれもこれもとカート1つでは足りずに、レジ横にキープさせてもらって、いざ支払いという段になり、慌てた。 「うわっ、予算オーバー…」 調子に乗って、まるで新生活を始めます的な買い物をしてしまった。 …不覚。俺らしくない浮つき方。 それでも平静を装って、全て配送を頼んだ。 これは引っ越し並みの廃棄だな。帰ったら大久保さんに収集日聞かなくちゃ。 散財したけれど、気分はちょっと晴れた気がする。

ともだちにシェアしよう!