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出張(5)
まさか…黒原さんに関係が!?
いやいや、そんな…あ…でも、黒原さんの体調が目に見えて悪くなっていったのは、アンダーソン社長がここによく顔を見せるようになってからだ…
2人の間に何かあったのだろうか。
何か弱みでも握られてたりして…
お茶はいらないと言われたけれど、一応取引先の社長だし、用意した方がいいんだろうか、とパントリーに行こうと席を立った。
その時。
バァーーン
と机を叩くような音と、それに続いて怒鳴り合うような声が聞こえてきた。
一体、何が!?
固まって社長室のドアを見つめた。
どうしよう。
ノックして入った方がいいのか?
考えるより先に身体が動いていた。
ノックもせずにドアを開け放つ。
「社長っ!?」
目の前に、アンダーソン社長の胸ぐらを掴んだ鬼の形相の満さんが映った。
「満さんっ!止めて!止めて下さいっ!」
2人の間に割って入ると、満さんはアンダーソン社長を突き放した。
どすっ、とソファーに倒れ込んだ彼は、襟を正すと
「弁解はしない。俊樹を利用したのは俺だ。
でも。
彼が俺のことをどう思っていようと、俺は彼を手放す気はない。」
そして、失礼、とだけ言って出て行った。
俺は満さんのことが気になったけれど、アンダーソン社長の後を追い掛けた。
「社長っ!お待ち下さいっ!」
社長っ、と呼び止める俺の声に振り向いたアンダーソン社長は
「騒がせてごめんね。また、来るから。」
と、いつものようにひらひらと手を振って行ってしまった。
一体何があったのか。
満さんがあんなに激昂するのを初めて見た…
『俊樹』って、『利用』って、…やっぱり黒原さんと何かあったんだ。
黒原さん………
俺はそれ以上追い掛けるのを諦めて、社長室に戻った。
満さんはソファーに座り、天を向いている。
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