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出張(7)

side:黒原 俺がのんびりと休みを満喫している間に、俺のことで満達に超特大台風が吹き荒れていたとは……知らぬが仏とはよく言ったもんだ。 あれこれと余計な買い物をしてしまったが、少し気分が高揚したまま足取り軽くホテルに向かった。 チェックイン時に 『黒原様、明日の11時からエステのご予約をいただいております。 3Fの“ange(アンジュ)”までご足労願えますか?』 なーんて、フロントマンに確認されて、引いた。 満め…エステまで予約しやがったのか。 …こうなったらとことん満喫してやる。 にっこりと微笑んで 『はい、承知しました。』 と答えてパンフレットも貰った。 満に言われた通りに、ディナーは部屋まで運んでもらおうかと思ったけれど、ざっとメニューを見た限りでは、食指が動かなかった。 何か美味いものでもないかと、お腹を空かせついでにデパ地下に出向いて、食べたい物を少量ずつ買い込んできた。 満には悪いが、今夜はこれで満足できるとは安いもんだ。 つまつまと惣菜をつまみつつ、パンフレットを見ていると、時間が経つにつれて、明日のエステの予約が段々と憂鬱になってきた。 「面倒臭いな」 文句を言いながら、バスタブにお湯を張り、入浴剤を投入した。 「ふーん、『柚子の香り』かぁ。」 ゆったりと湯に浸かり、何も考えずにぼんやりとする。 十分身体も暖まった頃風呂から上がり、身体を拭きながらふと、洗面所の鏡に映った自分の姿を見てため息をついた。 「ガリガリだなぁ…」 顔だけじゃない、悲惨な体躯に唖然とする。 鎖骨が飛び出して肋骨が微かに浮いている。 筋肉も落ちて腹筋がなくなりそうだ。 これじゃあ檸檬君が心配するのも無理はない。 今夜はゆっくり休もう。 眠れるだろうか。 何も考えずにぐっすりと眠りたい。 酒の力を借りようと、ビールを煽るように飲んで布団に潜り込んだ。

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