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出張(11)
寝ぼけてた。完全に熟睡。
クスクス笑われて恥ずかしかったけれど、ほぼ8割の客が爆睡するそうだ。
俺も漏れなくオールハンドのテクニックに瞬殺だったみたいだ。
恐るべし、エステ。バカにしてたけど滅茶苦茶身体が軽い。目の奥の重怠さも楽になっている。
着替えを済ませてから、デトックス効果があるというハーブティーを飲んでいると、次回の割引券を渡された。
また利用してもいいかと思う。
これは満にも勧めてやろう。
いい感じにお腹も空いた昼時。
部屋に帰るのもつまらないな。
そうだ!
式場の下見に行ってみようか。余計なことをするなと叱られそうだけど、ここから近い。
確かレストランも併設してたな…上手くいけばランチにありつけるかも。
名乗らなければいいだろ?これは散歩だ、散歩。
バレた時の言い訳を考えつつ駅に向かい、2駅目で下車した。
駅から近いその場所は、すぐに分かった。
少し先から芳しい薔薇の香りがしていたから。
一体どれだけ咲いているんだろう。
「あった…」
蔓薔薇のアーチを潜ると、左右に見事な大輪の薔薇が咲き乱れている。
白薔薇…忘れろ、忘れるんだ、
これだけのものを咲かせるには、余程手間暇をかけてやらねばならないはず。
レストラン…あ、良かった、営業中だ。
へぇ…本日のランチ『気まぐれシェフのお任せランチ』だって。メインは何だろう。
ドアを開けると、カラコロとベルが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
お好きな席にどうぞ、とにこやかに案内され、窓際の庭園が見える席を選んだ。
お任せランチを頼んで、店内をぐるりと見渡す。
ビジネスマン、カップル、女子会…様々な年代の人達が笑顔で食事をしている。
店内も清潔で、窓の桟にも埃ひとつ付いていない。
運ばれてきたランチは見た目も味も、それに店の雰囲気もスタッフの対応も申し分なかった。
ここなら間違いない。
きっといい式になるだろうな。
俺は満足して店を後にした。
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