55 / 174

出張(16)

何であんなこと口走ってしまったんだろうか。 でも、俺が金山から手を切れば問題はなくなる。 もし明日、ニールが満の所に乗り込んでも、俺が退職した後なら関係ないはず。 俺は運転手にコンビニに寄るように頼んだ。 便箋や封筒、ボールペンなんかを買って戻り、出来るだけ急いでくれ、と告げた。 思っていたより早い時間に到着した。 釣りはいい、と言うと運転手は愛想笑いをして去って行った。 俺はフロントに直行し、宿泊費その他を満に返金して、全て俺自身に請求を変えるように頼んだ。 何やら困惑した様子だったが、これでこの宿泊に関して満が関与することはなくなった。 部屋に戻り、デスクを片付け拭き上げると、さっき買った便箋を取り出した。 「退職届  この度一身上の都合により……」 日付は昨日付の方がいいだろう。 一気に書き上げて封をしてから、近くのポストを検索する。 1番近いポストを探し当てると、急いで投函しに出かけた。 良かった、最終の集荷に間に合った。きっと明日中に届くだろう。 見つけたポストに封書を落とす。 ぽすんという軽い音が響いた。 呆気ない終わり方。 自分が蒔いた種だ、仕方がない。 金山に後ろ足で砂を掛けるようなことをしてしまったのだ。何を言われても甘んじて受ける。 親父、怒り狂うだろうな。勘当ものだ。 マンションも出ていかなければならない。 あ、そうだ。 買った家具はどうしようか。急いで新居を決めなければ。 あれこれ思いを巡らせながら部屋に帰ってきた。ベッドに倒れ込むようにダイブする。 疲れた。本当に疲れた。 なーんだ。もっと早くにこうしていれば良かったんだ。 色んな執着に雁字搦めになって、最良の選択ができなかっただけだ。 ゆっくり風呂に入って眠ろう。 今夜は酒を飲まなくても眠れる気がする。 俺はバスタブに湯を張りに、のろのろと起き上がった。

ともだちにシェアしよう!