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包囲網(1)
side:檸檬
アンダーソン社長と言い争いになったあの日から、満さんがイライラしている。
ひとりでぼんやりと考え事をしていたかと思えば、何処かへ電話をして話し込んでいたり。
俺には何も言わないけれど、纏う空気がピリピリして痛い。
夕べも、いつもならイチャイチャしたりエッチを仕掛けてくるんだけど、そういうのは一切なくて、俺に甘えるように抱きついて眠っていた。本当に眠っていたかどうかは疑わしいのだけど、俺も眠れなくて、満さんの頭をずっと撫でてあげてた。
きっと黒原さんのことで頭が一杯で、それも自分が加担したと思い込んでいるから、黒原さんのために動いてるんだろう。
何か進展があるまでは、俺からは話は振らないでおく。
それにしても。
アイツは鬼畜だ。もう名前で呼ぶ価値もない。
黒原さんをオモチャにして傷付けて…
今度来たら塩撒いてやる。
3日目の朝――
今日で黒原さんの休暇は終わる。
少しは心も身体も休めることはできたんだろうか。
また明日から黒原さんが来てくれると思うと、正直ホッとしている。俺には荷が重かった。まだまだヒヨッコの俺は『ひとりでは何もできない』ということを痛感していた。
今日の来客は午後からの1人だけ。
ほぼデスクワークの1日だ。
コーヒーを入れようとパントリーに篭っていると、満さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
何事!?
大慌てで飛び出すと、アイツの胸ぐらを掴んで今にも殴りそうになっている満さんがっ!!
何で?朝っぱらから何の用!?
っていうか、止めなきゃ!
暴行はマズい!
「満さんっ!!!!!」
間に割って入り、2人を引き剥がして満さんの腕を掴んだ。
「ダメです!殴っちゃダメっ!」
フーフー息を荒げて威嚇する満さんを抱きとめて距離を取った。
「アンダーソン社長!アポなしの訪問はお断りしています!
どうぞお引き取りを!」
振り向きながらそう叫ぶと、奴は乱れた胸元とネクタイを直し、ソファーに座った。
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