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包囲網(2)
「座るな!帰れ!
仕事のこと以外で、俺にコンタクトを取るな!」
満さんが激昂している。
それをチラリと見た奴は、はぁ、と悩まし気なため息を一つついた。
「違うんだ。」
「違うって、何がだ?
悪いけど、俺はもうお前のことを信用しないし、オンオフ両方共仲良くしたいとは思わない!
すぐに出て行ってくれ!」
「違うんだってば!俺の話を聞いてくれよ!」
奴の目が潤んでいる。え?泣いてる?
満さんの怒気が、少し薄れた気がした。
俺はそっと満さんの拘束を解いた。
「…言いたいことがあるなら、すぐに言えよ。
言ったら、帰れ。」
「…違うんだよ。違うんだ。
俺は確かに告白したつもりだったのに、はぐらかされてしまって…どうしても俊樹を手に入れたかった俺は、姑息な手を使った上に、売り言葉に買い言葉で思わず
『セフレとして付き合ってくれ』
って言ってしまって…彼もそれを了承してたから、満にもそう言ってしまったんだ。
彼も、それ以上自分の気持ちを言ってくれないし、時間を掛けて落としてこうと思ってた。セフレじゃなくて、本当の恋人に……ところが昨日偶然出会った彼を見て吃驚したんだ。
一回り小さく細くなってて。
俺の知ってる俊樹じゃなかった。
彼の瞳を見て確信した。
『俺のことを好きでいてくれてる』って。
でも、あと一歩の所で逃げられちゃったんだ。
ここに来たらもう出社してるかもしれないと思って、急いで来たんだよ。」
「はぁ!?じゃあ、何か?
お前は俊樹のことを本気で愛してる、そう言いたいのか?」
「そうだ。」
「俊樹も、お前のことを思っている、ってそう言いたいのか?」
「間違いない。」
「あのぉ…じゃあ、結局、両片思い、ってことですよね?」
「そうなるな。」
満さんと俺は顔を見合わせた。
何だか呆れて言葉が出ない。
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