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包囲網(3)
満さんが何か言い掛けた時に、内線が鳴った。
「『はい、秘書室です…あ、はい。ありがとうございます。
すぐに行きます。』
すみません、急ぎの郵便が届いてるみたいなので行ってきます。」
2人っきりにするのは不安だったけど、急いで庶務まで取りに行った。
あれ?見慣れたこの字は…封筒の裏を見た。
黒原さん!?
何だろう。とてつもなく嫌な予感しかしない。
「社長っ!黒原さんから手紙がっ!」
「俊樹から?…何で手紙なんか…」
満さんは俺から手紙を受け取ると、ペーパーナイフで封を切り、中身を取り出した。
ガサガサガサッ
満さんの顔が見る見るうちに、赤く染まっていく。
「…ニール、お前のせいだぞ。
ここまで俊樹を追い込んで、何をしたいんだ?」
奴の前に突き出した紙には
《退職届》
の文字が書いてあった。
「退職届?…“願”じゃなくて、“届”??」
俺も混乱していた。黒原さんの強い意志を感じた。
突きつけられた奴も、パカっと口を開いたままだ。
「…恐らく…万が一外部にバレたり、ニールが脅しをかけてきた時に、自分がここから身を引いていれば、会社や俺達に迷惑が掛からない、と考えたんだろう。
俊樹は、お前がが今日、ここに来ることを予想していたに違いない。
見ろ。日付が一昨日…ニールが俊樹に会った前日になってる。
その日なら、“今日”はもう、会社とは関係のない人間、と言えば済むことだからな。
おい、ニール。
お前、俺の大事な秘書を…大事な家族を潰して、何が楽しいんだ?
“出張”に行く前は、アイツ前向きだったんだぞ?
それがお前と偶然にしろ出会った途端にこれだ。
どう責任を取るつもりだ?」
満さんは静かに怒っている。
奴は、突き出された退職届を見つめたまま動かない。
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