63 / 174
包囲網(7)
俊樹が何をしたいのか、一目瞭然だった。
腹が立って腹が立って仕方がなかった。
「俊樹、あの『退職届』は何だ?
あんなもの、一方的に送り付けてきてどういうつもりだ?」
俊樹は黙っている。
「お前はこんな非常識なことをする奴だとは、これっぽっちも思ってなかったんだけど。
ここを出て金山の後ろ盾から離れて、何処に行くつもりだ?
俺はお前の上司だという前に、幼馴染で家族以上の家族だと自負してきたんだが、お前はそうじゃなかったのか!?
俺は、お前にとって相談相手にもならない、そんな存在でしかなかったのか!?
…おい、俊樹、答えろっ!」
悔しくて情けなくて、握った拳が震えてくる。
暫くの沈黙の後、俊樹がぼそりと呟いた。
「大切に…大切に思ってるからこそ、言えなかった…幸せな最中の満に、水を差すような余計な心配を掛けたくなかったんだ…
それに、自分の気の緩みが招いたこと。
満には何の落ち度も関係もないからな。
非常識なことをしたのは重々承知の上。
それについては深く詫びをする。
檸檬君なら俺がいなくても、もう独り立ちしても大丈夫だ。それだけのことを教えてきてる。マニュアルだって作ってあるし、問題ない。」
「俊樹…」
何て事だ!
そうだ、コイツはそういう性格だった…人のことを思うあまりに、自分を後回しにしてしまう。
我慢して我慢して、自分で何でも解決しようとして……
もう一度、俊樹に声を掛けようとしたその時、ニールが突然土下座をした。
驚いたのは俺達だ。
「へっ!?ニール?何やってんの?」
「ニール!?どうした!?」
「すまない、どれだけ謝っても謝りきれない。
許してもらえなくてもいい。でも、謝らせてくれ!
俺のせいで、こんなことになって…申し訳ないっ!
俺がきちんと自分の気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったんだ!
俊樹、お前は俺のセフレなんかじゃないっ!
俺の変に捻くれたプライドのせいで、お前を苦しめてしまった…」
泣き声のニールが言葉を止めた。
ともだちにシェアしよう!