64 / 174
包囲網(8)
俊樹は、俺の前で『セフレ』と、改めて言葉に出されたことに動揺したのか、ニールと俺の顔を交互に見ながらアタフタしている。
「なっ、何を言ってるんだ!?
あなたと俺は何の関係もないっ!」
ニールはそれに構わず、話し始めた。
「俊樹、俺の一目惚れだったんだ。
何とかして接点を持って仲良くなりたかった。
絶対に俺のモノにする、落としてみせる、そう決めて…お前を手に入れるために卑怯な手を使って、俺の言うことを聞かせるように仕向けたんだ…
素直に『愛してる』と言えば良かっただけの話なんだがな…本当に申し訳なかった。」
そう言って、また深々と頭を下げた。
そして、正座をすると叫んだ。
「俊樹、愛している!
俺と結婚して下さいっ!!!」
ニールの言葉を理解できてないのか、俊樹はその場にへたり込むと
「えっ!?嘘…ええっ……」
と言った後、動かない。
俺を無視して見つめ合う2人。そこだけ時間が止まっている。
理解していたとは言いながら、俺は、突然のニールの告白を黙って聞いているだけだった。
俺、何しにここに来たんだっけ。
で、超熱烈な愛の告白を一緒に聞かされてるって、場違いなお邪魔虫以外の何者でもない。
我に返り、そっと立ち上がった。
あの様子じゃ、きっと上手くいくだろう。
背中越しに、俊樹の涙声とそれを宥めるような優しいニールの声が重なって聞こえ、やがて聞こえなくなった。
俺は、音を立てないように玄関のドアをそっと閉めて鍵を掛けた。
さーて、仕事に戻るか。
午後から約束もあったしな。
ハラハラしながら待つ檸檬に、何か美味いものでも買って帰ろう。
道中の菓子店を幾つかピックアップし、檸檬の笑顔を思い浮かべながらエンジンを掛けた。
ともだちにシェアしよう!