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マジかそんな馬鹿な嘘だろ(19)

ニールは俺から視線を外さない。 もう、こうなったらお手上げだ。 「…最初はそんなつもりなんてなかったのに…気付いたら、そうなってて…… あー、もう。そんなこと指摘するなよ。」 「俊樹…無意識にそうなってるって…そんなに俺のこと好きでいてくれたなんて… 俊樹。お前を傷付けて悪かった。 どれだけ殴られても蹴られても、罵倒されてもいい。 俺を捨てないで。俺から離れないで。」 俺の前に跪き、見上げるニールの瞳が潤んでキラキラ輝いている。 オマケに俺の右手を取って捧げ持ち…おいおい、待てよ!俺は男だ! 一瞬、ニールが何処かの国の王子で、自分がドレスを着た姫君かと錯覚してしまった。 マジかそんな馬鹿な嘘だろ。 今日、この台詞を何度心の中で繰り返したか。 “捨てないで”って…修羅場で女が使う台詞じゃないのか!? ニール…俺のこと、そこまで……… 「マジか…そんな馬鹿な…嘘だろ!?」 とうとう、口をついて出て来てしまった。 「マジだ!!!嘘じゃないっ! 俺は、俊樹を心底愛しているんだ! 結婚しよう、いやするんだ!お前はおれのものだ!」 ぐえっ 立ち上がったニールに力一杯抱きしめられて、変な声が出た。 苦しい。 背骨が折れる。 「……い…痛い……」 「うわっ、ごめんっ!俊樹、大丈夫かっ!?」 「ふぅ…骨が折れるかと思った…」 「すまない…ごめん、俊樹…」 ニールは俺の背中や腕をそっと摩りながら、ついには俺を優しく抱きしめて何度も何度も謝ってくる。 「…もう、いい。大丈夫だから。」 「本当に?本当に何処も痛めてない?」 頷く俺に、安心したのか 「今夜は美味いもの食べに行くぞ! 祝杯を上げよう。俺達の未来のために。」 こんなクサイ台詞でさえニールが言えば、少女漫画みたいにバックに薔薇の花が咲き乱れ、キラキラと光が飛ぶのが見えてしまう。 それを違和感なく受け止める俺も俺だ。

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