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景色が変わる(13)

咄嗟に両手で口を押さえてガードした。 こんな往来で止めてくれよ。それは絶対勘弁してほしい。 ニールは俺を助手席にエスコートして、ドアを閉めた。あの…俺は男なんですけど。 まるっきりニールのペースに持ち込まれている。 このまま当たり前のように俺の家に帰ろうとするニールを牽制した。 「ニール、色々世話になって済まなかった。 本当にありがとう。 今度こそは俺にご馳走させてくれ。 また…連絡してもいいか?」 ニールは途端に不機嫌な顔をした。 「俊樹、何で『ここでお別れです』みたいな言い方してるの?」 「えっ?だって明日から仕事行かなきゃ、だし…それに」 「それに?」 「ニールだって自分の家に帰らなきゃ!」 ニールは、ハァ〜〜〜…っと特大級のため息をついた。 「…俊樹、俺達、何?」 「“何”って…えーっと…あの、その…ううっ…」 「コ・イ・ビ・ト!恋人だよ、恋人!ねぇ、俊樹、分かってる!? 俺達、結婚前提で付き合ってるんだよ!? 言うなれば『婚約者』!!! その俺を何で追い返そうとするの!?」 ニールは既に涙目になっている。 「別に追い返すとか、そんなんじゃ」 「じゃあ何だよ!そんな言い方するなよ! やっと、やっと思いを交わせたのに…」 「…ゴメン…でも、お前も明日の」 「俺のことはいいの!俺は俊樹と一緒にいる時間が欲しいだけ!」 むうっ、と頬を膨らませるニールは子供みたいだ。 俺だって…離れたくはない。でもそれ以上に… 「…ニール…何もしない?」 「何も、って?」 「手を出さずに大人しくしてる、ってこと…」 「…善処する。」 「“善処”じゃ困る。“絶対”でないと。 俺はどんなことがあっても明日は出社しなければならないんだ。」 うううっ、と唸って頭を抱えたニールは 「…“絶対”我慢する…」

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