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景色が変わる(14)
ニールは捨てられた子犬のような目で俺を見つめている。
あぁ、そんな顔して。ズルい。
恐らく無意識なんだろう。
…絆 される…今すぐにでもこの恋人を抱きしめたくなる。
つくづく流されやすい性格だと、ため息をつく。
「ニール…約束するなら…今晩一緒に、んぐっ」
言った側から唇を奪われた。
いくら薄暗い車内とはいえ、こんな所で!
思いっ切りニールの肩をぶっ叩き突っ張り、息を荒げながら叫んだ。
「ほらみろ!我慢なんかできないじゃないか!
俺はここで降りる!
奢らせたのは申し訳なかった。ご馳走様っ!」
「俊樹っ!」
ドアに手を掛けた俺を制し、ニールがシートごと俺を抱きしめる。
「悪かった!ごめん!
こんな別れ方は嫌だっ!俊樹、ゴメンっ…」
ニールの全身から、ふるふると震えが伝わってきて、俺は抵抗できなくなった。
俺もこんな喧嘩別れみたいなのは嫌だ。
少し自由の利く左手を持ち上げて、ニールの背中にそっと回した。
それに気付いたのか、ニールが俺を抱く力を緩めた。
ほんの少しだけ2人の間にできた空間のせいで、真正面から見つめ合うことになっている。
駐車場の照明に映えるニールの顔は、濃い陰影がくっきりと見えて…俺は暫く、そのコントラストの美しさに見惚れていた。
「俊樹…あぁ…離れたくない…」
俺の耳に唇を寄せたニールから甘い吐息が触れて、鼓膜が打ち震えた。
どろりと耳から愛液を流し込まれ、軽く達してしまったような気がして、俺は思わず身震いした。
ヤバい。
この男は…甘美な毒だ。
一度その味を知ったら、二度と離れられなくなる。
俺は…それを知ってしまっている……
俺の髪を優しく撫でながらニールは俺の名前を呼ぶ。
「俊樹…俊樹…愛おしくて堪らない…俺の、俊樹…」
頭のネジが何処かにふっ飛んで、バカになりそうだ。
『止めろ』なんて言葉が俺から失われている。
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