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景色が変わる(15)
恋愛に免疫がないと、こうなってしまうのか。
情けないなぁ。
相手が何をしても、ひと言『ごめん』『愛してる』と言われたら、それだけで舞い上がって許してしまうなんて。
まるで初心な乙女みたいじゃないか。
ニールの大人の香りに包まれて、もう何も言えなくなっている。
そんな俺に気を良くしたのか、ニールは俺を落としにかかる。
「俊樹…愛してるんだ…離れなくない…このまま、君を抱いて眠りたいんだ…」
蜂蜜のように甘い言葉は、俺の思考力を奪っていく。
ダメだ…ニールに、落ちる……
「…絶対に手を出さないと誓えるか?
腰だって、せっかく良くなってるんだ。これ以上は…無理だ。」
「分かってる!誓う!約束する!いい子にするから、一緒に帰ろう!」
ニールはくしゃりと崩れた笑顔で、俺に特大のリップ音付きのキスをお見舞いすると、嬉々として俺と自分のシートベルトを締め、意気揚々と発車した。
はぁ…弱いなぁ、俺。
ニールの思う壺じゃないか。
チラリと盗み見る横顔は、口元が緩んだままだ。
俺といるのがそんなに嬉しいのか?
「…俊樹…そんな色っぽい目で見られると、ラブホに直行したくなるから…」
んなっ!?ラブホ!?
「ばっ、ばかっ!そんな目でなんか見てねーからっ!」
慌てて顔を窓に向けた。首筋まで赤く染まっているはずだ。心臓もバクバクする。
くっくっと喉を鳴らす恋人に、揶揄われたのだと分かっている。
窓の外を流れて過ぎていく街のイルミネーションと暗闇が交差するその一瞬、窓ガラスに俺とニールが映り込む。
その後も外を眺めるフリをして、その横顔が映る瞬間を心躍らせて待っていた。
今夜、無事に過ごせるだろうか…一抹の不安を抱えながら、俺達はまたマンションへと戻って行ったのだった。
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