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景色が変わる(18)

…流石にワイシャツのサイズは合わない… 俺よりワンサイズ大きい(ニール)の身体は、ボタンが留まらなくて、見るからにアウトだ。 「ちょっと無理だな、俺のを…。俊樹、悪いがネクタイ貸してくれないか?」 「あぁ、どれでも好きなのを。 靴下はこれ。新品だから…サイズは大丈夫かな… ごめん、昨日のうちに洗濯しておけば良かったのに、気付かなくて悪かった。」 「いや、構わない。靴下は大丈夫だ。 …これいいな、このブルーのを貸してくれ。後で返す。 ふふっ、また今夜俊樹に会う口実ができた。」 「えっ!?今夜!?」 「何だよ、嫌なのか?」 「…嫌じゃ、ないけど…」 「決まりだな。晩飯は何処かで食べようか。何がいい?」 「…ニールさえ良ければ…うちで何か作ろうか?」 「えっ、マジ?俊樹作ってくれるのか?」 「その代わり、そんなこだわった物は作れないぞ。普通のご飯で良ければ。」 「普通でいいんだ、普通で!!! うわぁ、嬉しいなぁ。今日一日頑張れる! 甘えついでにおかずのリクエストしてもいい?」 「俺が作れる物ならいいけど。」 「ふふっ。じゃあ、オムライスがいい! ハートマーク描いてほしい。」 「オムライス?それなら作れる。ぷっ…ハートマーク…分かった。特別だぞ。」 「やった!仕事終わったら連絡する。 急いで終わらせるから…」 「そんな期待されても困るんだけどな…俺は何時に終わるか分からないけど、なるべく早く帰れるようにするよ。 あ、そうだ…」 俺はキーケースから鍵を1本取り出した。 そして、ニールの手の平にそっと置いた。 「俊樹、これ…」 「…入れ違いになったら困るから…今日だけ預ける。」 その時のニールの顔と言ったらなかった。 ぱぁっと花が開くような、とはこういう場面なんだろう。 まるで壊れ物のように大切そうに、鍵を両手でそっと握り締めると、何度も何度も頷いた。 その姿を見て、胸がキュンと疼く。

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