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景色が変わる(19)

勝手に口をついて出てきた晩ご飯の誘いは、ニールを有頂天にさせ、俺を軽く凹ませた。 何であんなこと言ってしまったんだろう。 ネクタイだけ受け取ればいいことなのに。 好きな人に見返りなく何かをしてあげたい、と思うのは自然なことなんだろうか。 オムライスくらいであんなに喜んでくれるなら、毎日でも作ってやる。 「俊樹、そろそろ出るか。」 「うん、大丈夫。」 ニールは俺を先に追い出すと、さっき渡したスペアキーでロックした。 「へへっ。何だか嬉しいもんだな。」 何が嬉しいのかよく分からないけれど、ニールはそれをまた自分のキーケースに収めて胸ポケットに入れ、その感触を確かめるように上から押さえていた。 この時間なら満達とブッキングしないはずだ。 下降してきたエレベーターに誰もいないことにホッとして乗り込んだ。 「割と安くてとびきり美味しい朝食バイキングがあるんだ。そこに行こう。 食べ終わったら会社まで送って行く。 満に渡さなければならない書類があるから。」 「…まさか一緒に出社!?」 「そうだ。何か不都合でも?」 「不都合って…不都合だらけだろ!? 昨日の今日だぞ!どんな顔して2人揃って満の前に行くつもりだ!?」 「えー、恋人。婚約者。」 「ニールっ!正気か!?」 「だって本当じゃん。今更どれだけ取り繕ったって、事実は変えられない。変える気もない。 満だって彼の伴侶だって、百も承知だ。無粋なことはしない。そうだろ? 俺は堂々と『黒原俊樹の恋人』として満に会うぞ。何か文句あるか?」 「…ううっ」 能天気。俺様。自己中(言い過ぎか)。空気読めない奴。思い込み…… いろんな言葉が浮かぶけれど、澱みなく言い切られて頭がクラクラするけれど、胸の奥からふつふつと嬉しさが込み上げてくる。

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