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景色が変わる(21)
破顔した満が、ニールの肩をバシバシと叩いて笑う。
ニールも負けじと叩き返しては笑っている。
「黒原さん、良かったですね。」
そっと近付いてきた檸檬君が、微笑んでいる。彼の目にも薄っすらと涙が…
「…ありがとう。沢山迷惑と心配を掛けてごめんね。」
「いいえ!…思いが叶って…本当に良かったです。
あ、俺、コーヒー入れてきます!」
ぱたぱたとパントリーに消えた檸檬君の背中を見送ると、俺はパソコンの電源を入れた。
何度も出社催促の電話が掛かり始めた頃、ニールはやっと重い腰を上げた。
振り返りちらちらと俺の方を見るが、ひと言でも声を掛けたらまたそこでニールの動きが止まってしまう。
俺は黙ってお辞儀をして見送りに徹する。
ニールもそれを分かっている。分かっているけれど、中々足が進まない。
仕方なく、俺はそっとニールに耳打ちした。
「ニール、オムライス作って待ってるから…」
効果は抜群だった。
しゃきん、と仕事モードに戻った彼は
「行ってきます!」
と元気良く飛び出して行った。
それを見ていた満と檸檬君は
「猛獣の調教師だ…」
「あの猛獣を躾けるなんて…俊樹もやるな…」
と囁き合っていた、らしい。
俺は俺で、溜まりに溜まっていた仕事を(檸檬君曰く『阿修羅像みたいな手が見えました!』)あっという間に次から次へと片付けて、後は満と檸檬君の結婚式の段取りを進めて行くだけになった。
こちらは粗方本家の方で進んでいたから、俺は親父との電話がメインだったので、軽くジャブを受けながらも何とか目処がついた。
満が
「心からお祝いしてくれる人達だけで式をしたい。披露宴もそうだ。
だから我儘言わせてくれ!」
と、いつになくゴリ押しをして、これはおそらく檸檬君やその家族に配慮したんだと思うが…少人数での挙式を進めることになっている。
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