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景色が変わる(22)

俺の上司で幼馴染で親友の満。 親兄弟よりも、誰よりも長く満の側にいて、誰よりも満のことを理解している自負がある。 どうか、どうか幸せになってほしい。 この控えめで聡くて愛らしい伴侶なら、生涯心配はいらないだろう。 目付役としての俺の役目はもう、終わりだな。 嬉しいような物足りないような…俺は満の親ではないが、まるで娘を嫁に出す父親のような不思議な気持ちでいた。 満を狙っている女どもや、利権を絡めて懐柔しようとうる奴らもいる。 そんな奴等から、檸檬君をしっかりと守ってあげなければ。 世間の騒がしい風は、金山の御隠居達がすぐにおさめてしまうだろう。 それだけの影響力を各界に持っているのだ。 「…黒原さん…余り根を詰めると胃にきますよ。 これ、良かったらどうぞ。」 ふわりと甘い香りとともに、檸檬君が何か持って来てくれた。 「ありがとう。甘い良い香りだね、なぁに?」 「蜂蜜入りのカモミールティーです。 喉にもいいそうです。今朝コーヒー飲みづらそうでしたし、それよりいいかと思って…」 「ありがとう。気を遣わせてごめんね。 いただきます。」 ひと口飲むと、優しい甘みと香りが鼻に抜け、昨日あんなに喘いで酷使した喉に染み込んでいく。 「…美味しい…」 思わず溢れた言葉に反応した檸檬君が、良かった…と呟いて微笑んでいる。 満、お前の伴侶はこんなにも他人(ひと)を思い、大切にしてくれるんだな。 あっという間に飲み干して、もう一杯お代わりをお願いした。 と同時に、昨日の自分の痴態が脳裏に浮かんで、カップを落としそうになり焦った。 丁度檸檬君はパントリーにいたから、こんな俺の顔を見られなくて良かったんだが… 俺…ニールの…恋人になって…抱かれたんだ……

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