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景色が変わる(25)
ニールの熱視線に射抜かれる。
身体がカアッと熱くなり、俺は狼にロックオンされたウサギのように、その場から動けなくなった。
何て目力の強い男なんだろう。“釘付け”とはこういうことを言うのだろうか。
周囲の騒めきや降下する機械音が全く聞こえなくなった。
時が止まる。俺とニールしかいないように感じた。
軽い振動を受け我に返り、人波に押されてエレベーターを降りた。
さり気なく俺の斜め前を歩くニールが、右手の人差し指を軽く振って誘導する。
ついて来い、ということか。
付かず離れず1メートルの微妙な距離を保ったまま、1ブロック先の駐車場まで歩くと、助手席に乗るように促された。
ここまで来れば誰にも会わないだろう。
乗り込んで、ふぅ、と息を吐くと重厚なドアが閉められた。
すかさず運転席に乗り込んだニールは俺の顔を見つめると
「我慢できなくて、会社まで乗り込んで悪かった。仕事の邪魔をしたことも謝る。
でも、1分でも1秒でも早く俊樹に会いたかったんだ…」
俺も隠さず素直に言えた。
「俺も…ニールに早く会いたかったんだ…
でも、やっぱり公私混同は良くない。そこら辺はキチンと線引きしてほしい。」
「分かった…ごめん。
「分かってくれたならいいよ。
そうだ、足りない物があるんだ。帰りにスーパーに寄ってくれないか?」
「OK!何処か指定の店はあるのか?」
「帰り道の所でいい。いつも寄ってる所だ。」
「分かった。今日は一日中頭の中をオムライスがグルグル回ってたんだ。早く食べさせてくれ。」
思わずプッと吹き出した。
…ニールの秘書殿、ニールのお守りは大変だっただろうな。
「…ニール…皆んなに迷惑を掛けずに、ちゃんと仕事してきたんだろうな!?」
「当たり前じゃないか!俺を誰だと思ってんの!?」
即答したなら…間違いないだろう。
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