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景色が変わる(28)
それにしても…凄い食べっぷりだ。
大きくひと口分掬ったスプーンの中身は、どんどん口の中に吸い込まれていっている。
俺はどちらかというと少食だから、こんな食べ方には圧倒される。
はぁ…豪快だな。
俺はスプーンを片手に、ニールの気持ち良いくらいの食べ姿に見惚れていた。
やがて、俺の視線に気付いたニールは
「あっ、ごめん!美味しくて夢中になってた!
俊樹、お代わりって…ある?」
お代わり?マジか…
「すぐにできるよ。どのくらい食べる?」
「ホントに!?じゃあ、さっきの半分くらい!」
「ちょっと待ってて。」
明日の弁当用に除けておいたケチャップライスを冷蔵庫から取り出して、レンジでもう一度温め直し、ふわふわの卵で盛り付けた。
待ちきれなかったのか、途中から背中にニールがくっ付いてきた。
俺の腰に手を巻きつけ、鼻歌まで飛び出す始末。
コイツは『待て』もできないのか!?
「ニール…動きにくい…」
俺の抗議も無視して、更に腕を巻き付けてくる。
恋人になった途端にこの甘え方!
こんなこと慣れてない俺は、心臓がバクバクする。
…それでも何とか作り上げた。
「ほら、できた!持って行って!
俺、ひと口も食べてないからお腹空いた!
俺にもちゃんと食べさせろ!」
そう言うと、やっと離れてくれた。
また「いただきますっ!」という声が聞こえて、今度は少し余裕ができたのか、俺の食べるペースに合わせて食べ始めた。
「俊樹、どうしてこんなに料理が上手なんだ?何処で習ったの?」
「金山の本家で。
相当鍛えられたよ。でもそのお陰でほぼ何でもできるようになった。
料理だけじゃなく、全てのことにおいて。
だから、満の目付役という立場には感謝している。」
「そうか…だから俊樹はストイックな部分が見え隠れするんだな。
なぁ、俊樹。少しずつでもいいから、俺の前ではその鎧を脱ぐように…お前が楽に呼吸ができるようになってほしい。」
俺は最初、ニールの言わんとする意味が分からなかった。
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