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景色が変わる(30)

俺が腹を立てているのに気付いたニールは、慌てて弁解する。 「だから、勘違いしないで。そうじゃない。 気分を害させてごめん。 君の生き方を丸ごと愛してる。それは分かって! あぁ…言葉が足りなくてごめん…」 しゅん、と項垂れるニールを時々チラリと見ながら、俺は食べかけの夕食をさっさと済ませ、席を立ちシンクに片付けた。 それを見たニールが残りのオムライスをかっ込んで平らげ、食器を持ってきた。 何か言い掛けそうなニールを無視して、後片付けを始める。 自分の今までの生き様を完全否定されたみたいで腹が立った。 生まれついた家も役目も、そりゃあ若い頃は煩わしいと思ったこともあった。 けれど、誰に言われた訳でもない、自分で納得して昇華して進むべき道を選択してきたんだ。 確かに、ニールが言うように鎧を纏わなければあの会社の秘書も目付役も務まらない。 それはもう物心ついた頃からの癖のようなもので、今更、直そうとか変えようとは思わない。 自分が確立したスタイルだと思っているから。 それをあれこれ他人に口出しされる覚えはない。 甘えろ? 甘えたい? 俺はニールと一緒にいる時は、まだ緊張はしているものの、初めての恋人らしい恋人として俺なりに振る舞っているつもりだ。 だけど、今までやったことのない態度なんて急に取れる訳がない。 俊樹、こんな時こそ冷静に。 空気を変えようと、ハンドドリップ用のコーヒーサーバーとドリッパーをセットした。 ニールは深い意味で言っているのではない。 俺が無理をしているように見えた、と言われた。 それはそうかもしれない。そうしないと仕事にならないから。 でも、それは誰だって表と裏の顔があるじゃないか。 コーヒーのいい香りがしてきた。 ぐるぐると考えてはいても、手は勝手に動いていたようだった。 ポタリ…ポタリ…とドリップしている間に、俺の心も少しずつ落ち着いてきた。 鎧を外せない俺。 ガチガチにガードした心を外してくれるのは…ニール。 これは間違いない。

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