115 / 174

景色が変わる(31)

ニールの切ない視線を感じる。 全てにおいてハイスペックな男にこんな顔をさせるのは俺だけ…そう思うと、今まで感じたことのない優越感に満たされてきた。 無言でニールの前にソーサーごと置いた。 「ありがとう。」 それにもワザと答えず、席についた。 さっき封を切ったばかりのコーヒーの香りは、濃く部屋に漂っている。 「…いただきます…」 食後のコーヒーくらいで律儀な男だ。 さっきの怒りは、既に収まっている。 きちんと言葉にしなければ相手には伝わらない。 『分かってくれるだろう』『察してくれるだろう』ではダメなんだ。 勇気を振り絞って名前を呼んだ。 「…ニール。」 ニールが伏せていた目をこちらに向けた。 「…もう、怒ってないから。 俺の…今まで歩んできた人生を全否定された気がして…カッとなって声を荒げてしまって…ごめん。 そうしなければ、対等に張り合うこともできなかったし、戦ってこれなかった。 俺は恥ずかしながら、こんな恋愛って初めてのことで…どうやって向き合っていいのかも正直言って分からない。 甘える、とかどうしていいのか分からないんだ。 こんなの重いだろ?嫌になったんじゃないか?」 ニールは手を伸ばして、テーブルの上の俺の手をそっと握った。 「俺はどんな俊樹も愛おしくて堪らない。 自分の思いを打つけ合って理解して共感して…俺達は一つずつ一緒に恋愛の階段を登っていこう。 俺達は俺達の愛を育んでいくんだ。」 そして、席を立ち俺の前に跪くと、恭しく手の甲にキスをした。 「俊樹、全身全霊を掛けてあなたを愛します。」 うわぁ…映画のワンシーンみたいだ… 頭がぼおっとしてくる。夢か幻か? ニールにキスされた所から、強烈な熱波が這い上がってきた。 俺は、こくこくと無言で頷くことしかできなかった。

ともだちにシェアしよう!