121 / 174
憧れ(4)
す…と引き寄せられるように唇が合わさるその瞬間に、俺の携帯の着信音が鳴り響いた。
ズッコケるニール……
「…ゴメン。」
無視しようとしたが、何度も何度も繰り返す着信音に痺れを切らして画面を見た。
「っ…親父っ!?」
慌ててタップ!
「もしもしっ!?」
『あー、やっと出た!
おい俊樹、お前水くさいなぁ。
親に隠し事なんてするなよぉー。』
「…親父、ゴメン。」
『言い難いのは分かるけどさ。
俺はそんなに信用なかったかな。何でも相談してもらってると思ってたんだけどな。』
「そんなことはない、けど。」
チクチクと嫌味混じりのボヤき。
『でもまぁ、おめでとう。
先方も礼を持ってこちらにご挨拶に来て下さったし、俺達は反対しないから。
近いうちに2人で来なさい。
御隠居達も喜んで下さってるから、そちらにも顔を出すといい。
日が決まったら連絡してくれ。』
「…うん、分かった。
親父、あの」
『“ごめんなさい”は無しだぞ。
ニール君にヨロシク伝えてくれ。じゃあな!』
俺が口を開く前にプツリと電話が切れた。
「…“ありがとう”くらい言わせてくれよ…」
俺の呟きに、それまで黙って聞いていたニールが、俺をそっと抱きしめてくる。優しく、壊れ物でも扱うかのように頭を撫でられる。
「…聞こえてた?」
「うん、ちゃんと。お父さん、受け入れてくれたんだ。」
無言で頷く俺。
バレて恥ずかしいとか、御隠居の所に報告に行くのが面倒だとか、そんなことはすっぽりと頭から抜け落ちて、ただ俺を抱きしめてくれるニールの温もりに心が寄り添っていて。
「俊樹、土曜日には婚約指輪を買いに行くぞ。」
「え?指輪?」
「日にちを見て、結納にも伺う。
それまでに結婚式もいつにするか決めないとな。
俊樹、今から忙しくなるぞ!」
指輪…結納…結婚式…
今まで縁のなかった単語が頭を埋め尽くし、俺はただ、によによと笑うニールを見つめるだけだった。
ともだちにシェアしよう!