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憧れ(9)

車内がほんわりと薄桃色に霞んでいるような… そんな雰囲気のまま、車は目当ての店に着いた。 「あ…着いちゃった…」 「ふっ。俊樹、緊張してるのか?」 「だってこんな所、滅多に足を運ばないじゃないか。 …ニールは慣れてるのか?」 「ばーか。格好つけさせろよ。 予約入れてあるから…行くよ。」 ニールは車のキーをチャリっと鳴らしてポケットに突っ込むと、俺の手を取って歩き出した。 「ちょっ、ニールっ、手っ」 俺は慌てて手を振り解こうとするけれど、ニールはお構いなしで店に入って行く。 髪をアップにしたブラックスーツの知的な雰囲気の女性が迎えてくれた。 「いらっしゃいませ!」 「18時に予約の電話をしていたアンダーソンと申します。」 「ようこそ!お待ちしておりました。 ご案内いたします。どうぞ。」 手を繋ぐ俺達のことを案内してくれる。 かなりホッとした。俺は抵抗するのを止めて、大人しくニールに着いていく。 「お電話で粗方お伺いしておりましたが、こちらのショーケースのお品がご希望に添えるかと… 心惹かれる物がございましたらお出しいたしますので、どうぞご遠慮なく仰って下さいね。 見るのと身に付けるのとでは、また雰囲気が変わりますから。」 俺はそっとケースの中を覗き込んだ。 一、十、百、千、万、十万、百万……うっそ!桁が違う! 俺はニールの袖を引っ張り、耳元で囁いた。 「ニール、どれも全部高過ぎる! 俺はこんな高い物を買うつもりないよ。 本当にシンプルで輪っかになってたらそれでいいんだ。 ねぇ、もっと手頃な値段のを」 「俊樹。」 ニールが俺の目をじっと見つめて言った。 「これはお前を一生繋ぎ止めるための枷だ。 その思いに見合う物でなければ。 いくら出しても惜しくない。俺にとってはそれだけ価値のある物なんだ。 分かってくれるよね?」 「…枷?」 「そう。俊樹、もう俺から逃げられないよ。 逃がすつもりもないけれど。 あまり装飾が付いてなくて傷がつきにくい物……これとこれ、見せていただけますか?」

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