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憧れ(10)

「こちらと…こちらでございますね。 承知いたしました。」 (店員のネームプレートには『蓑田(Minota)』と表記していたが)にっこりと微笑むと、頷いてビロードのトレイに取り出してくれた。 俺は、さっき言われたニールの台詞が脳内に再生され続けて、心臓がバクバク跳ねていた。 「うーん……俺は少し動きのある曲線の…こっちの方が…すみません、両方ともつけてみても?」 「勿論です! 後で指のサイズを確認させていただいてもよろしいでしょうか? お手を…あ、私ではなくパートナー様の方がよろしいですよね? 差し出がましく申し訳ありませんでした。」 茶目っ気たっぷりに言われ微笑まれて、ニールも俺もくすくす笑ってしまった。 「ははっ。その役目は俺だけで。 俊樹、手を貸して。」 そっと左手を取られ、一瞬視線が絡み合った後、ニールがすっと薬指にさした。 「…むぅ…少し大きいな。 でも…綺麗だ。こちらは…」 そう言って指輪を抜くと、もう一つの方をさした。 「俊樹、どうだ?シンプルでどちらも似合ってる。」 こんな軽い物なのに、つけられた瞬間、物凄く重い物を背負った気がした。 ニールの…この男の一生を手に入れた…そんな思いに、思わずぶるりと身体が震えた。 「…本当に、本当に俺でいいんだろうか? ニールの…隣にいるのが、俺で…」 「まだそんなこと言ってんの? 蓑田さん、往生際の悪い俺のパートナーに何とか言って下さいよ。」 あらあら、と蓑田さんが言いかけた時、奥から「いらっしゃいませ!」と声を掛けてきた男性がいた。 「オーナー!」 ホッとした表情の蓑田さんは、オーナーと呼んだ男性に近付くと何やら耳打ちをしてこちらにやって来た。 「外出しておりご挨拶が遅くなり申し訳ありません。 この店のオーナーの新藤(しんどう)(すすむ)と申します。 ここからは私が担当させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。」 蓑田さんは、うんうん、と頷いている。

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