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憧れ(11)
穏やかに微笑む紳士の登場で、その場の雰囲気もふわりと緩やかなものに変わった。
蓑田さんは“もうこれで安心”と言わんばかりに
「ご案内せずに申し訳ありませんでした。
こちらにどうぞ。」
と、俺から指輪を受け取りトレイにそっと収めると、さっさと奥に歩いて行く。
新藤さんも
「さ、どうぞ。
うちの蓑田が入れるコーヒーは評判なんですよ。」
爽やかに行先を示され、俺とニールは顔を見合わせて、新藤さんの後を着いて行った。
「改めまして…オーナーの新藤進です。
ようこそ当店へ!
金山様からもご連絡を頂戴いております。」
「ニルス・アンダーソン・透です。よろしく。
満から?…そうでしたか。」
和やかに名刺交換を終えると
「金山檸檬様がうちの娘と懇意にして下さっておりましてね…あ、手芸店に勤めているのですが、檸檬様が学生時代からその店を利用されていたご縁でして。
『檸檬君のお知り合いならしっかりと勉強させていただくように』
と厳命を受けている次第です(笑)」
「あ!浴衣でお世話になった、あのお店!
素敵な反物を譲っていただいてありがとうございました。
お陰様で檸檬君の株も爆上がりだったんです。
それに、満の誕生日プレゼントの折にも、職人さん達にもお世話になってありがとうございました。」
「いえいえ、そうでしたか。お役に立って何よりでした。
黒原様は金山様達と同じ職場なのですね?」
「ええ。
このお店のことは、檸檬君から聞いていたので来ることができて嬉しいです。」
「ありがとうございます。こちらこそ足をお運びいただき感謝しております。
あ、よろしかったらどうぞ。」
蓑田さんがコーヒーを運んできてくれていた。
「いただきます」と断りを入れたニールがひと口。
「あぁ、本当だ。美味いですよ、蓑田さん。」
俺もニールに倣ってひと口。
「美味しい!コーヒー専門のカフェでも開けそうですよ。
後でコツ教えてほしいです!」
蓑田さんは面映 い様子で
「恐縮です。」
と一礼して出て行った。
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