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憧れ(12)
檸檬君という共通の話題とオーナーの巧みな話術で、俺はいつの間にか緊張の糸がほぐれて、談笑ができる程にリラックスしていた。
その頃になり、さり気なく指輪の話に戻したオーナーは
「指輪によって、様々なテーマで作られているのですが…
お選びいただいたこちらのお品は、どちらも“さざ波”をモチーフにしています。
シリーズ化していて、微妙にデザインが違うんですよ。
寄せては返す波をお互いの愛情に例えて、永遠の変わらぬ思いを表現しています。
柔らかな曲線は穏やかな優しい思い…ですかね。」
「どちらも計算された凄く美しいフォルムですね。
俊樹の細い指に似合う。」
面と向かって言われると、どう返していいのか分からない。
「…ニール、ちょっと、そんなこと…」
「黒原様のお指のサイズなら、こちらの方がしっくりくるかもしれませんね。
一生身に付けていただくものですから、私共も納得できる状態でお渡ししたいんです。
天然石を埋め込むこともできますよ。」
「成程、天然石ですか。」
「失礼いたします。」
蓑田さんが別の指輪も持ってきてくれた。
「こちらは“花と月”シリーズの物です。
“さざ波”と比べると、若干華やかな印象があるんですが…」
「本当だ。印象が全然違う。」
「さっきのより細いのに、存在感があるね…俊樹、どちらが好みだ?」
「これも綺麗なんだけど…うーん、迷うなぁ…」
「どうぞアンダーソン様も両手につけてみて下さい。
お2人で対になったところをご覧いただいて…」
「…ニール、どう?」
「俊樹、もう決まってるんだろ?」
「…うん。こっちが俺達らしいかな、って。」
「そうだな。『永遠の変わらぬ思いを繰り返す』こっちが俺達らしいかな。
オーナー、こちらにします。」
ニールが俺の薬指を撫でた。
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