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憧れ(14)

裏に刻印する言葉やサイズその他の確認を済ませて、丁重に見送られて店を後にした。 ニールは俺の手を繋いだままで…俺も来た時とは全く違う思いで大きな手に包まれている。 助手席まで当たり前のようにエスコートされてドアを閉められた。 運転席に乗り込んで来たニールは、俺の顔を覗き込むと 「もう、泣かないでくれ。」 と優しく頭を撫でてくれた。 「泣いてないから。」 と返すのが精一杯の俺は、そっと涙を拭うと真っ直ぐに前を向いた。 空はすっかり夕闇に染まり、未だ涙の膜が張った目に、濃紺と微かなオレンジのグラデーションが美しく滲んでいる。 ニールはサイドギアを戻すと、その手で俺の右手を取った。 「何とも離れ難いな…俊樹の身体の一部を触っていないと、どうも落ち着かない。」 「…運転、危ないから…ダメだ。」 「じゃあ、逆に俺に触れていてくれないか?」 ニールは握った俺の手を自分の太腿の上に置いた。 「これで我慢する。」 何とも勝手な言い分だけれど、俺も離れたくなかったからニールの言う通りにした。 手の平全体に、じわりとニールの体温が伝わってくる。 あたたかい このぬくもりはおれだけのもの 突然噴き出す独占欲に戸惑いながら、きっとニールもそう思っているはずだと確信していた。 「俊樹、うちに来ないか?」 「え?」 「こんな気持ちのままでひとりで夜を過ごすのは嫌だ。 俊樹と一緒にいたい…何もしない。ただ、一緒に時を過ごしたい。 あ、晩ご飯は何処かで食べて行こう。」 気持ちが寄り添う。 俺は無言で頷いた。 「ありがとう。」 高揚した感情が、触れた所から熱となり伝わってくる。 ひとを愛するという気持ちは、こんなに後から後から溢れて止まらなくなるのだろうか。 際限のない、終わりを知らぬこの思いをどうやって伝えたら良いのか… 自分で自分の気持ちを持て余しながら、俺達は無言で愛を確かめ合っていた。

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