132 / 174

憧れ(15)

俺達は2人とも、いつもより口数が少なくて。 ニールに連れて行かれたお店で食べた食事の味なんて、もう分からなかった。 「…ご馳走様でした。」 「ご馳走様でした。」 両手を合わせて見上げた先には、同じような熱量の瞳を持った愛おしい男がいる。 抱かれたい 抱きたい 情欲が渦巻く脳内と跳ねる鼓動を抑え、精一杯の平静さを装い駐車場へと向かう。 それなのに…… 「…ダメだ、抑えが効かない…」 もう既に一杯一杯になっている俺は、ニールにそう呟かれて、目の前がクラリとした。 「俊樹っ」 ふらついた俺の身体を逞しい腕が抱きとめた。 肺一杯に流れ込んでくるニールの匂い。 「あっ、ごめんっ…大丈夫…」 振り解けない。 それどころか身体を預けてしまう。 布越しに密着する部分から、お互いの体温が交わり溶けていくようだ。 思わず、縋り付いた腕をきゅっと掴んでしまった。 ふわっ、と身体が宙に浮いて、ニールの顔が間近に見えた。 「うわっ」 「俊樹、少しこのままで。」 ニールは俺を横抱きにしたまま、足早に車に近付くと、一旦俺を降ろして助手席に座らせた。 そして運転席に回り込むと荒々しくドアを閉め、身体を乗り出して俺のシートベルトを締めようとするが、焦っているのか中々締まらない。 静かな車内に金属音がカチャカチャと響いている。 「…ふっ…ふふっ…」 「…俊樹、何がおかしい?」 「だって…いつも冷静なニールが…そんな慌てて…くっ、くくっ。」 はぁ、と大きく息を吐いたニールは 「そうだよ。お前が関わると、こうなっちまうんだ…笑うなよ…」 「…ごめん…でも俺も緊張しちゃって…茶化してないとどうにかなりそうで…」 「とにかく、帰るぞっ!」 そう叫んでやっと俺を固定したニールは、自分のベルトは一発でロックし、行きと同じように自分の太腿に俺を手を置き、無言で車を走らせたのだった。

ともだちにシェアしよう!