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憧れ(15)
俺達は2人とも、いつもより口数が少なくて。
ニールに連れて行かれたお店で食べた食事の味なんて、もう分からなかった。
「…ご馳走様でした。」
「ご馳走様でした。」
両手を合わせて見上げた先には、同じような熱量の瞳を持った愛おしい男がいる。
抱かれたい 抱きたい
情欲が渦巻く脳内と跳ねる鼓動を抑え、精一杯の平静さを装い駐車場へと向かう。
それなのに……
「…ダメだ、抑えが効かない…」
もう既に一杯一杯になっている俺は、ニールにそう呟かれて、目の前がクラリとした。
「俊樹っ」
ふらついた俺の身体を逞しい腕が抱きとめた。
肺一杯に流れ込んでくるニールの匂い。
「あっ、ごめんっ…大丈夫…」
振り解けない。
それどころか身体を預けてしまう。
布越しに密着する部分から、お互いの体温が交わり溶けていくようだ。
思わず、縋り付いた腕をきゅっと掴んでしまった。
ふわっ、と身体が宙に浮いて、ニールの顔が間近に見えた。
「うわっ」
「俊樹、少しこのままで。」
ニールは俺を横抱きにしたまま、足早に車に近付くと、一旦俺を降ろして助手席に座らせた。
そして運転席に回り込むと荒々しくドアを閉め、身体を乗り出して俺のシートベルトを締めようとするが、焦っているのか中々締まらない。
静かな車内に金属音がカチャカチャと響いている。
「…ふっ…ふふっ…」
「…俊樹、何がおかしい?」
「だって…いつも冷静なニールが…そんな慌てて…くっ、くくっ。」
はぁ、と大きく息を吐いたニールは
「そうだよ。お前が関わると、こうなっちまうんだ…笑うなよ…」
「…ごめん…でも俺も緊張しちゃって…茶化してないとどうにかなりそうで…」
「とにかく、帰るぞっ!」
そう叫んでやっと俺を固定したニールは、自分のベルトは一発でロックし、行きと同じように自分の太腿に俺を手を置き、無言で車を走らせたのだった。
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