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結ぶ(6)
…俺達の結婚式にあたって、ニールは
『後々まで記念になるものを』
と言って、ビデオがダメならせめて写真を残したい意向だったのだが、俺はどうしても恥ずかしさが勝 って
『指輪があるからいいじゃないか。
とにかく俺は嫌だ』
と突っぱねて拒否したのだった。
一度口に出してしまったら、もう後戻りはできなくて。
ニールが悲しそうな顔をしていたのを知っていたが、天邪鬼な俺は覆すことができなかった。
後悔と申し訳なさで、何度も『せめて写真を』と言い掛けては叶わず、とうとう大切な式を終えてしまっていたのだ。
フォトフレームを抱きしめて泣く俺をニールがそっと抱きしめてくれる。
そして
「遥さん、本当にありがとうございました。
隼人さんにも…何てお礼を伝えれば良いのか…」
ニールまで鼻声だ。
遥さんは俺達の肩にそっと手を置くと
「喜んでくださったならそれだけでいいんです。
本日は誠におめでとうございました。
どうぞどうぞ末永くお幸せに。」
この式場が、ダントツに指示されている訳が分かった。
オーナー夫夫 の『ひとを喜ばせる心』が至る所に浸透している。
それは採算を度外視したもので、きっとこのお2人には関係ないことなんだろうな。
何度もお礼を告げ、元のようにラッピングをして着替えを済ませた。
ニールが受付で清算をしているのをソファーに座って待っていると、遥さんが微笑みながらやったきた。
「慣れないことばかりでお疲れになったでしょう。
どうぞゆっくりと身体を休めて下さいね。
あぁ、それと…これは私から“奥様”にお渡ししているプレゼントです。
ダンナ様に中々の評判でして…お家に戻られてから開けて下さいね。」
そう言って手渡されたのは、小さな白い紙袋だった。
「あっ、はい、ありがとうございます…“ダンナ様に中々の評判”って…」
「開けてからのお楽しみです。ふふっ。」
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