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結成まであと1年 2

 鏡張りの広い教室を覗くと、まだ養成所の候補生たちが残っていた。ダンスレッスンを終えた後なのに、みんな練習している。偉いなあ。おれだったらダンスレッスンだけでも体力が保つか分からない。  雲雀も練習しているなら、邪魔しないように帰った方がいいかなぁ。 「ひーめさん。こんばんはぁ」 「あ、天ちゃん! こんばんは」  教室を覗いていたら、ぴょっこりと天ちゃんが出てきてくれて少しほっとした。  天ちゃんは今年デビューの決まっているアイドルグループの一人だ。養成所の中でも年上の方で、いつも優しくてニコニコしているし、ゆるゆるでふわふわとした色素の薄い髪がよく似合っている。  天ちゃんはなぜかおれのことを『姫さん』なんて呼んでくれていた。女の子みたいに思われるのはあんまり好きじゃないけど、天ちゃんは優しい呼び方だから好き。 「雲雀くんやろ? ちょっと呼んでくるから待っとって?」 「ありがとう、天ちゃん」 「いやいや、御子息様のためなら、なーんてな」  御子息っていうのは、おれの母さんがこの養成所を経営する事務所の社長だからだ。時々言われるけど、『御子息』なんて呼ばれ方はちょっとくすぐったい。  長くて白い指をひらひらと振って天ちゃんは歩いて行く。    そういえば、天ちゃんのグループはまだメンバーを集めていた気がする。天ちゃんと雲雀が組んだらどうなるだろう?  マジメでクールな雲雀とゆるゆるひらひらしてる天ちゃん。  すごく面白そうだけど、雲雀はあんまり天ちゃん好きじゃないみたいだからやめとこう。天ちゃんあんなに面白いのに。いつも微笑んでて吊り上がった目を細めてて狐さんみたいで可愛いし、毎日いろんな種類の色付き眼鏡をかけているのもお洒落だ。 「陽? 何してるんだ?」 「えっ? あ、晴臣くん。こんばんは!」 「こんばんは」  深々と丁寧に頭を下げてくれたのは晴臣くんだ。真っ黒な前髪から覗く黒目がちの切れ長の瞳がキリッとしてて、低くて重い声が侍みたい。首にタオルをかけているから、養成所のジムでトレーニングでもしてたのかもしれない。 「こんな遅くなって大丈夫なのか? 一人で帰れるか?」  晴臣くんは眉目秀麗を形にしたみたいな顔を近づけて、じいっと相手の目を見て、ゆっくり話してくれる。表情からは分からないけど、心配してくれてるんだろう。 「うん、雲雀がいるから大丈夫」 「ああ、雲雀か。それなら大丈夫だな」  少し安心したようにふっと表情を緩めた。お芝居の稽古や礼儀に厳しいから誤解されちゃうけど、とっても優しいんだ。  本当は俳優だけやっていく予定だったけど、「天が迷惑をかけないか心配だ」と言って天ちゃんと同じグループでアイドルになることになった。  天ちゃんより年下だけど、実は幼馴染らしいんだよね。でも、おれと雲雀と同じだね、って言ったら天ちゃんは変な笑い方してたし、晴臣くんは「いや違う」ときっぱり否定してたからそれ以上詳しくは聞けなかった。 「二人とも気をつけてな」 「ありがとう、晴臣くん」  細身なのに、なぜかとても頼もしい晴臣くんの背中が遠ざかっていく。    晴臣くんと雲雀が組んだらどうなのかなぁ。クール×クールなのもかっこいいかもしれない。でも晴臣くんのちょっとずれてて面白いところ、雲雀ひとりでどうにかできるかなぁ。途中で制御するのは諦めて、遠くから暴走を見守りそうだ。雲雀は時々そういうところあるからね。    やっぱり難しいなあ、雲雀のパートナー。  天ちゃんと晴臣くんのグループに入れてもらうのもいいけど、雲雀は人数少ない方がいいんだって。  前に話してた時、二人がいいって言ってた。  んー、なんでだろう? 

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