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結成まであと1年 4
コンビニに寄って家に着いた頃、おれはとてもご機嫌斜めだった。
「おれもカップラーメン買いたかった!おれも食べたい!ちょっとちょうだい!」
「お前がこの時間にカップラーメンなんて食べたら吐いちゃうだろ」
「今日は大丈夫かもしれない。いつでも自分の限界に挑戦していきたいと思います!」
「だめです」
「ずるい!」
一口くらいくれればいいのに! とおれは抗議するように、玄関の扉を強く閉めた。
おれと雲雀の家は同じマンションの同じフロアだ。このフロアには雲雀の家とおれの家の二つしかない。とは言っても、中では壁とドア一枚隔てて繋がっていて、行き来が自由になっているから一つの家みたいなものだ。
おれの両親は仕事で忙しいから、雲雀の両親に面倒を見てもらうことが多くて、こういう形になった。
それぞれの両親の他に、おれの双子の妹の月詠ちゃんと、雲雀の弟の颯というきょうだいもいるけど、今日は雲雀とおれしかいなかった。
だからカップラーメンをこっそりいっしょに食べちゃおうかな、って思ったのに、雲雀はダメって言ったんだ。悔しい。
いつものようにそれぞれの家でお風呂に入って、雲雀の家のリビングに集合するつもりだったけど、行かないぞ。こっちの家でこっそりカップラーメンを食べてやるんだから。ふははは。
「……でもお腹空いてないかも……」
体を洗ってさっぱりして、温かい湯船に浸かったら、カップラーメンへの執着が溶けて消えていった。代わりにずっと大事に抱えていたノートのことを思い出した。
ゆっくりと時間をかけて温まり、寝巻きの浴衣に着替える。昔から、外でも中でも着物が過ごすことが多かったので和装は好きだ。今日も袴で出かけていた。生地の色も柄もたくさんあるし着心地も好き。背筋がしゃんと伸びる気がする。浴衣もゆったりしてて楽でいい。
着替えながら、ノートに描いた世界を考える。雲雀と、誰かの舞台。ドキドキしながら、いっぱい考えたけど、今は真っ白で何も思い付かない。なんだか寂しい。
「……あれ?」
一人でノートを見直そうと自分の部屋に戻ってみると雲雀がいた。おれのベッドに座って本を読んでいたみたいだ。
驚いていると目が合って、「おう」と微笑んでくれた。心がぽかぽかする。おれがあんなわがまま言った後なのに、雲雀は優しい。
おれが隣に座ったら、雲雀は本を置いて、ばさり、とおれの頭にタオルをかけて拭き始めた。
「ちゃんと拭かなきゃダメだろ? 風邪ひくぞ」
「ん、んー……カップラーメンは?」
「もう食べたよ。陽、風呂長いんだもん」
雲雀が濡れた頭を優しく拭いてくれる。もふもふ、わしゃわしゃと丁寧に水分を拭き取って、ついでに頭のマッサージまで。いっぱい話したいことがあるのに、このままだと眠ってしまう。
「ひばりー」
「んー? どうしたー?」
二人の時の雲雀は、みんなといる時よりも口調も表情も柔らかい。俺もつられてふにゃりと力を抜く。
「今日、雲雀のパートナーどんな子がいいか考えてたの」
「ああ、その話……例えば?」
「んーっとね、二人組がいいって言ってたから、対照的なイメージの子とかどうかな? 雲雀はかっこよくてクールで王子様っぽいでしょ?」
「……おう、ありがと」
「だからね、例えば、可愛くてちょっと頼りなさそうに見えるけど、芯はしっかりしてる感じの子と組むとバランスがいいのかなーって」
「ふーん……」
「それと、ずっと一緒にいるなら気心知れてる人がいいよね。だから、そう、例えば……」
「……それってさー」
飛鳥くんとか、と続けようとしたけれど、不意に雲雀が手を止めてタオルを置く。
顔を上げると、見慣れたグレーブルーの眼差しが、強くおれを見つめていた。
「お前じゃだめなの?」
「え?」
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