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結成まであと1年 5

「俺のパートナーって陽じゃだめなの?」  目をぱちくりさせていると、雲雀はもう一度ゆっくりと繰り返した。けれど、おれは少し反応が遅れてしまう。 「……お、おれ?」 「うん」  ぱちぱち、と瞬きを繰り返す間、雲雀は一度もおれから目を離さなかった。笑っていない雲雀は凛々しくてかっこいいけれど、少し冷たく見える。  本当はそうじゃないことは知ってるけど、見慣れない表情が少しだけ怖かった。 「お……おれはだめだよ……」 「なんで?」 「だって……だめだもん」  雲雀に見つめられていると、次第に心臓の音が早く、大きくなっていく。無意識に、強い眼差しから逃れようと体を退くけれど、ぎゅっと肩を掴まれてしまった。 「……おれは体力ないし、ダンスなんてしたことないもん。歌のレッスンだって……」 「体力なくても運動神経はいい方だろ? 歌はもともと上手いじゃん。声だって可愛い」 「……雲雀や候補生の子たちみたいにカッコよくないし……」 「対照的な二人の方がいいんだろ? それに陽が可愛いだけじゃなくて芯はしっかりしてること、俺は知ってる」 「でも……」  いつもは涼しげな雲雀の眼差しが、熱を帯びていた。いつになく真剣な表情に不安と緊張が入り混じって、目を逸らしてしまう。 「……俺とじゃ嫌?」 「え?! そうじゃないよ!」  びっくりしてブンブンッと頭を振って否定する。雲雀は少しほっとして笑った。 「じゃあ何がダメなの? 嫌じゃないんだろ?」 「い、嫌じゃない……けど……」  口籠っていると、雲雀がすっかり乾いた髪を優しく撫でる。頭を撫でて耳に髪をかけて頬に触れた。  目を細めて微笑む雲雀に頭を撫でられていると、ふと今日の出来事を思い出した。  養成所から帰る前に、飛鳥くんにもこうやって優しく微笑んで、頭を撫でていた気がする。同じことを飛鳥くんにも言ったのかなって考えたら、胸がぎゅっとなった。  あの時の雲雀と飛鳥くんは、何を話していたんだろう。気になったけど、雲雀に聞けない。雲雀と雲雀のお友達とのことだから、おれにはきっと関係ないし、踏み込んじゃいけないことだ。   「俺は待ってるから、少し考えてみて」 「うん……」  雲雀とは生まれた時からずっと一緒だった。おれの自慢の幼馴染で親友だ。  だけど、おれだけのものじゃないんだって気づいたのはいつだっけ。  そのことに気づいてからは、雲雀がたくさんの人に愛されるのを遠くから眺めていることが多くなった。みんなの輪の中心で、雲雀は一番輝いていてかっこいい。まるで星の王子様みたい。そこは雲雀だけのステージだった。  だから、いろんなことをノートに書き込んだけど、雲雀の隣に自分が立つ世界は想像もしていなかった。  どうしよう。   叫びたいくらい嬉しいのに、胸に引っかかるものが邪魔で、踏み出せない。  おれが黙ったまま、ぎゅうっと手を握って俯いていると、雲雀は小さくため息をひとつ零した。 「……やっぱり考えなくていいや」 「え?!」  俯いていた顔をバッと上げる。雲雀を見つめると「ああ、そうじゃなくて」と続けた。 「今日はダメ。明日から考えて。今考え始めたらお前眠れなくなっちゃうだろ。もう寝ような」 「あ、う、うん。じゃあ、また……」  また明日ね、と続けようとしたおれは、首を傾げて雲雀に目を向ける。雲雀はおれのベットにゴロン、と横になっていた。 「雲雀?」 「ん?」 「?」  雲雀も首を傾げて、おれも同じように首を傾げる。それを見て、ふっと笑った雲雀がおれの浴衣の袖を引っ張った。 「部屋に戻るのめんどーだから、いっしょに寝ていい?」

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