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結成まであと1年 7
「陽、どこ行く気?」
「え?」
登校中、考え事をしながら歩いていたら、雲雀に腕を引っ張られた。
「学校はこっち」
「あっ……ありがと」
「……大丈夫か?」
いつものように少し顔を上げると雲雀と目が合った。心配そうにじっと見つめられて、思わず目を逸らしてしまう。大丈夫、と小さく呟いて、雲雀を振り切るように学校へと向かった。
心配してくれた雲雀を置いていくなんて、本当は間違っている。
でも今は、雲雀の顔をまともに見られなかった。昨日のことを思い出して、頭がぐるぐるーっとなって、おれは雲雀から逃げ出した。
***
「おーい桃ノ木いったぞー」
「え? あんっ!」
体育の授業中、クラスメイトの声に気づいて顔を上げると、頭にボールがぶつかって、ぐわんっと揺れる。ボールは高く跳ね上がって、おれはころんと地面に転がった。かっこ悪くて恥ずかしくて、起き上がれない。
「桃ノ木ィーッ! 大丈夫か!? 怪我してないか!? 顔は無事か!?」
「てめぇ笹本! 気を付けろ!!」
「え、ええ――!? 俺ー!?」
「詫びろ! 地べたに頭こすりつけて詫びやがれ!!」
「ええ――!? そんなにー!?」
何故か笹本くんがみんなに囲まれていた。ごめん、笹本くん。おれがぼーっとしてたせいで。
***
「それで俺がばぁーんと!」
「あんっ!」
図書館へ向かう途中、ぼんやり歩いていたら誰かとぶつかって、抱えていた本を全部ばら撒いてしまった。いっぱい借り過ぎちゃだめだなぁと反省する。
「あばばば桃ノ木!? ごめん見えなかった!」
「え? ううん、大丈夫。おれの方こそごめ」
「明石ィィ!!」
明石くんが武田くんのラリアットで吹っ飛んで、おれの視界から消えちゃった。びゅん、と風が吹いて、髪の毛が靡いている。
「図書館の妖精が潰れちゃうだろうが!」
「す、すまねぇ武田!」
「桃ノ木ィ!この馬鹿を許してやってくれ!!」
「う、うん……」
おれが前を見てなかったせいなのに、武田くんと明石くんは本を運んでくれた。
それにしても、本のことを図書館の妖精って呼ぶなんて。二人とも大きな体で可愛いこと言うんだなぁ、ふふふ。
***
その後もおれは、全然だめだった。
「桃ノ木!? どうして花壇に突っ込んだの!? やっぱり親指姫か何かだったのか?!」
「陽くん? どこ見てるの? 何が見えるの? 妖精さんかな?」
「桃ノ木ー、どうしたー? 可愛いだけじゃ世の中渡っていけないぞ、授業を聞け」
……なんて、みんなに怒られたり心配されたりしながら、ようやくお昼休みだ。いつもなら雲雀と一緒に食堂に行くけど、今朝と同じように逃げ出して、おれは一人で校舎裏にいる。
ひとりで考えたいから、って言ったら、雲雀は「そっか」と納得してくれたけど、ちょっと寂しそうだった。思い出すだけで胸がぎゅうっとなる。
『俺は待ってるから、少し考えてみて』
昨日の雲雀の言葉。真剣な表情と、奥底に熱を秘めた眼差し。
生まれた時からずっと一緒なのに、雲雀が知らない人みたいに見えた。
でも、そのあとはいつもみたいに優しくて、いっぱい触ってくれて気持ちよくて、起きた時には、もしかしてあれは夢だったのかも、って思った。
だけど、朝ご飯を食べながらぼんやりと雲雀を見ていたら、雲雀はおれの考えてること見透かしたみたいに、おれにだけ聞こえる声でこっそり『昨日の返事、いつでもいいから』って囁いた。それでおれは、昨日のあれはやっぱり夢じゃないんだ、と気づいて、……そこからずっとこんな感じ。
いろんなところでいろんなところをぶつけて、体のあちこちがちょっと痛い。
アイドルになるなら、体に傷を作っちゃいけないのに、何してるんだろう。おれは擦りむいた膝や肘、ぶつけて痣ができた腕を擦った。それで、はっとした。
おれが、アイドル?
雲雀といっしょに?
「……うぅん――っどうしよーっ!」
おれは頭を抱えてぎゅうっと小さくなった。
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