12 / 13

★一方その頃★『結成まであと1年 3』の雲雀くん

 深緑色の生地に白い小花柄の着物、赤みがかった茶色の袴に黒のブーツ。  全体的に落ち着いた暗めの色合いを纏っていても、歩くたびにひらりひらりと着物の白い花が舞う姿は可憐だった。濡羽色の艶やかな髪に、白雪の肌、小さい唇と長い睫毛が影を落とす瞳は桃の花の色。日常では稀に見かける程度の服装も相まって、まるで童話の世界から迷い込んだ姫君だ。目の下の黒子すら、縦にポツンポツンと2つ並んでお行儀が良い。 「お、雲雀の『姫』じゃん」  友人の声には『姫』への嘲笑が含まれているが、本人に――陽に聞こえていないので、雲雀もあえて構うことはしなかった。いつものことだ。気にならない。どうでもいい。  そんなことより、俺の幼馴染は今日もぶっちぎりで可愛らしい。    天が近づいて来て、親指で後ろの陽を示す。にまにまと胡散臭い笑みを浮かべる狐顔を、雲雀はあまり信用していなかった。毎回嫌がらせのように一番に陽に近づいて、こうして自分を呼びに来るのも苛立たしい。  しかしながら、陽が来るのを待ちわびていたので、すでに帰り支度は済んでいた。 「また姫来てんじゃん」 「幼馴染も大変だな~、っていうか世話係って感じ?」 「そうでもないよ」 呆れたような笑いを含んだ言葉に対して、目を合わさず適当な言葉を投げ返す。 「やっさしいなー雲雀は」 「確かに可愛いけどさ、毎日は無理だわ」  陽への嘲笑とからかいに、多少雲雀への同情を含んだ言葉だったが、一言二言返して立ち上がる。すると、友人の一人が少し真剣な顔をして陽を睨んでいた。 「俺、言ってこようか? 毎日これじゃ雲雀大変じゃん?」  大きなつり目と短い眉を釣り上げて、飛鳥が少し声を荒げる。ぶわりと金色の髪が逆立つかのようだ。  雲雀は陽の様子を伺ったが、今の会話は聞こえていないらしい。愛らしい姿の幼馴染は何も知らずに、雲雀と目が合うと嬉しそうに微笑んだ。それに合わせてぽぽぽぽん、と花が舞う。  飛鳥の荒々しい心配は時折鬱陶しいが、本気で雲雀の心配をしているのはわかっていた。丁寧に断り、毛を逆立てる猫を宥めるような気持ちで接する。 「全然大変なことなんてないから、気にすんな」 「でも、毎日毎日おかしいよ。あいつが社長の息子だからだろ? そういうのって」  どうなの? と続けたが、飛鳥は雲雀を見上げて、動きを止める。雲雀は黙って飛鳥を見下ろして、じっと見つめていた。荒ぶった気持ちが鎮まって、飛鳥は気まずそうに俯いてしまう。 「ご、ごめん……。なんか俺、でしゃばっちゃって……」 「いや、いいよ別に。ありがとう」  飛鳥がそっと見上げると雲雀は表情を少し柔らかくして、目を細めた。頭ひとつ分低い位置にある飛鳥の頭を優しく撫でる。他の友人にやられたら馬鹿にされた気がするのに雲雀だと気にならない。心地良かった。 「心配してくれるのは嬉しいよ。でも、俺が好きでやってることだから。な?」 「あ、ああ、うん。そっか……」 「じゃあ、また明日」  飛鳥が頷くと掌があっさりと頭から離れてしまった。名残惜しさに雲雀を見つめたが、雲雀の視線はすでに陽に向けられている。雲雀は真っ直ぐと陽の元へ向かって、決して振り返ることはなかった。

ともだちにシェアしよう!