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マックside 知らんけど

 「もう、イヤや~」 カランとバーの時にお客さんが入ってくるドアからオールバックの髪の男がいじけながらやってきた。 俺は静かにカードケースに入った写真を裏のポケットへ仕舞う。 黒のスーツの胸ポケットには緑のスカーフ……情報班の1人、ジョニーや。 「あれっ? マック起きてたんや……ただいま」 ちゃんと挨拶をするところは育ちの良さが垣間見える。 「おかえり。始末にいったアーセナルとエース待ち」 あの2人は黙ってドスドスと入ってくるからな。 「そっか。お疲れ様」 ジャケットの脱ぎながら穏やかな声で言って、静かに口角を上げるから、さっきまでの暗い気持ちが吹っ飛んだわ。 これは生まれ育った環境やなくて、ジャッキーの教えをちゃんと聞いてるかが分かれ目か。 特にエースにはもっときちんと教えなあかんな。  カウンターにジャケットを置いたジョニーは器用にカフスを外して腕捲りをしながらカウンターの中へ入り、シンクで手を洗い始めた。 透き通るかの如く白い肌に折れそうなほど細い腕が露になる。 「ケガないか?」 いつもの安全確認を忘れそうになったわ。 「今日は話だけだったから大丈夫。キツい香水で鼻はやられたけど」 済ました顔はギリシャ彫刻のようでいつまでも見ていられるくらい綺麗。 今もたまにモデルの仕事をしているだけはあるな。 ハンドソープを付けて、細くて長い指を泡で染めていく。 「倫子(りんこ)さん良い情報くれんねんけど、甘くて度数高いお酒ばっか勧めたり、重要なモノは『ベッドでね』って誘うからイヤやねん」 上擦るような高い子どもっぽい話し方をするジョニー。 情報収集の時は甘く低い声を意識しとるらしいけどな。 「『凜胡(りんご)』って名前が親近感あって、響きが好きやって気に入ってくれてるんやろ? お願いやから、辛抱してくれ」 俺は諭すように言う。 「マックが言うから、仕方ないけど。でも、ほんまはイヤやからね」 唇を尖らせて水で泡を落としていくジョニー。 「堪忍な」 昔は俺1人でやってたから、出来なくはないが。 メンバーで一番のイケメンさとスタイルでしか取れない情報がたくさんあるから。 「謝らんといて。俺も仲間なんやから」 手をハンカチで丁寧に拭きながら口角を上げていく。 こいつも大人になったな。  ジョニーが施設に来た理由は一家離散やったかな。 メンバーでは唯一、実の親からもらった名前をずっと使っていた奴やった。 昔から整った顔で女子からはモテ、男子からは僻まれとったわ。 俺らと仲良くなったきっかけはその男子のいじめからジャッキーと由希仁が助けたから。 最初は何故かキレられたけど、最終的にはあっちからお願いされて仲間に。 奇跡的に由希仁と同い年だったから、仲は良かったで。 きっとジョニーも……知らんけど。

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