5 / 6

トッポside みんなに迷惑を掛けたくない

 「立て」 額に冷たくて硬いモノが当たったのを感じて、浅い眠りから意識を浮上させた。 目を開けても暗くてよく見えない。 「抵抗するな、黙って案内しろ」 低い声だから、男か。 メガネは掛けてるけど、レンズが濃い青やから暗いと全く役に立たんの。 「撃つぞ」 ああ、額のやつは拳銃なのか。 ここで撃たれたら、爆薬がバーンでなるな。 ボクはいいけど、みんなに迷惑は掛けたくない。 「ボク、薬師なんです。見えないと思いますけど、たくさんの薬に囲まれてますよ。爆薬はもちろん、毒薬も……いっぱい」 声は震えてるけど、僕はなるべく冷静に語る。 彼は銃口を少し震わせた。 「ボクは死んでも構いません。でも、あなたは目的があってここへ来たのでしょう? ひとまず、電気だけは付けさせてください。それから、言う通りにしますから」 ああ、こんなに長く語ったことないよ。 その前に聞いてくれるかな。 いや、ボクみたいなダメダメ人間の話を聞いてくれるわけないか。  「わかった……早く付けろ」 うっすらと黒く浮かんでいた影が動く。 額がほんのり熱を帯びたんだ。 「ありがとう」 ボクは心から感謝した。 ベッドの後ろに左手を回す。 大丈夫、みんなに迷惑は掛けないから。 いつも電気のリモコンの脇に、抗けいれん薬を改良したスーパーバールが置いてあるんだ。 濃度は高くしてあるし、唾液で溶けやすくしてあるから、点灯した後に飲めば、てんかん重責状態に陥ることになる。 あとはメガネを外して一気に光量を入れるか。 どちらにしても意識を失ってぶっ倒れる。 上手くいけば、死ぬ。 男トッポ、腹を決めた。 ボクはスイッチを思い切り押す。  パチッ 一番明るいのを点灯してメガネを投げた。 眩し過ぎて目が痛い。 もっと、もっと。 ボクの目に光を入れないと。 でも、目に幅の広いものが掛けられてしまった。 慌てて薬を口に放り込む。 今度はみぞおちを突かれて、吐き出してしまった。 体勢をうつ伏せにされ、両手を後ろで縛られる。 あかん、もう無理や。 後頭部にまた冷たくて硬いモノが当てられる。 さっきより深く強く捩じ込まれている。 「抵抗するなと言うたやん、アホ」 関西弁が漏れ出してる彼。 何故か、鼻が啜る音が聞こえてくる。  「ええよ、撃ってくれや……」 ボクは掠れた声で懇願した。 「ボク、2年前に頭に腫瘍が出来てな、大きいのを切除したからすっからかんになったんだ。後遺症でてんかんと羞明になって、全然役に立たなくなっちゃたからね……もうみんなに迷惑掛けたくないんだよ」 ああ、情けない。 ボロボロと涙が出てくる。 男なのに。

ともだちにシェアしよう!